約 1,287,693 件
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2465.html
750 名前:ぽけもん 黒 27話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01 22 47 ID 7CNDPUVs [2/9] 「私が反ロケット団のリーダーであるシルバーだ、か。いやー、いうねえ」 数時間後。集会が解散した後、僕達はシルバー、そしてシルバーの傍らにいた壮年の男と、休憩室といった趣の小さな部屋にいた。 「うるせえ黙れ。俺にも立場ってもんがあんだよ」 いつもと随分と違うキャラを演じていたことを恥ずかしく思っているのだろう、シルバーは顔を赤くしている。 壮年の男はそれを穏やかな目で見ていた。 「それで、こちらの方は?」 僕がシルバーに彼のことを尋ねると、シルバーが答えるより早く、彼は答えた。 「私はただのしがない年寄りさ。彼の父と親しくさせていただいてね」 「そういうことだ。この人は俺の昔からの協力者さ」 シルバーの父。 その言葉で、先ほど浮かんだ疑問が再燃した。 「そうだ。シルバー、さっきの演説で随分とロケット団を恨むようなことを言っていたけど、いったいどういうことだ?」 「……今は言えねえ。だが、俺にはロケット団を潰す義務がある。ただ、十年前の警察からやられたこと、アレのバックにロケット団の指示があったということだけは言っておく」 彼のこともなげに付け加えたようなその話は、それだけで僕にとっては大きな驚きだった。アレがロケット団の指示だったって、シルバーの父はロケット団の幹部じゃなかったのか? それに、ロケット団を恨む理由としてはこれで十分であるように思える。 この出来事がきっかけで、すべては変わってしまったのだから。 でも、シルバーはそれをまるでおまけのように語った。じゃあ彼のロケット団を潰す義務ってのはいったい何なんだ? 「お前はまた余計なこと考えてんな」 「余計なことじゃない。大切なことだ」 「ともかく、俺は今お前にそれを言う気はねえ。諦めろ。そもそも、俺はそんな話をしにここにお前等を呼んだわけじゃねえんだ」 「じゃあ何のために……」 「作戦のために決まってんだろうが」 「あ」 うっかりしていた。 集会参加者の何人かと話を交わし、彼らのロケット団から受けた酷い仕打ちにすっかり感情を動かされ、本題を忘れかけていた。 「まったく、俺達はロケット団被害者の会じゃないんだぞ」 「ごめん……。でも、ちゃんと実働部隊の人の能力と性格はある程度調べたよ」 「当たり前だ」 彼はそういいつつ、テーブルの上にラジオ塔の図面を広げた。さらにその上に小銭とメダルを広げる。 「メダルが俺達の戦力だ。そしてこの小銭は敵戦力。小銭の金額はそのまま敵の数として考えろ」 「敵の作戦は分かったのか?」 「いや、ほとんどの団員には古賀根市に集まること以外何も伝えられていない」 「じゃあ作戦は分からずじまいか」 「一応、ぎりぎりまで調べようとは思うが、期待はできないだろう」 「作戦が分かってるに越したことは無いけど、どのみち雑兵にできることなんて限られてくし、この場合は特に僕達の作戦の問題にはならないと思う」 「どういうことだ?」 「入り口や階段、エレベーターの数は限られている。そこを抑えればそれだけでいい」 僕はそういいながら、二機あるエレベーターに一人ずつ、社員用出入り口に二人、階段に二人、非常階段に一人、適切なメダルをおいていく。 二人配置したところは力押しで突破されないよう、弱点を補う、もしくは相互に組み合わせて力を発揮するタイプの人員を、一人配置のところには地形を利用して放水や落石など単純な物量で守れる人員を配置してある。 「敵は航空戦力を使用しないって話だけど、追い詰められたら目立つのを無視して強硬手段に出るかもしれない。それでこうだ」 そういって、僕は屋上に雷タイプのポケモンを二人、飛行タイプのポケモンを二人配置した。 「ランは使わないんだな」 「彼女は最終手段だよ。構内じゃ危なくてとても使えない」 「最終手段?」 「基本はお前とともに電波発信を狙う幹部に対応してもらうつもりだけど、もしそれが失敗に終わったら、ラジオ塔そのものを焼き落としてもらう」 「……随分な作戦だな」 「あくまで最後の手段だよ。最悪の事態を避けるためだ」 「最悪の事態……か」 シルバーはそう言って苦々しげにうつむく。 751 名前:ぽけもん 黒 27話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01 23 40 ID 7CNDPUVs [3/9] そうだ、もしロケット団の作戦がすべてうまくいってしまえば、この国は奴らに乗っ取られてしまう。 それを防ぐためには、いくらかの犠牲と被害を出そうとも、ここを奴らの手中に収めさせるわけにはいかない。 「分かってると思うけど、この作戦の性質上、奴らに先んじて、僕達が施設を占拠しなきゃいけない。だから、敵の作戦決行がいつになるかを先につかむことが肝と言える。おそらく、やつらも目立つをの避けるために、まずは少数精鋭での制圧を行うはずだ。中枢を押さえたら、大部隊を投入して一気に占拠、という狙いだろう。というか、多分、今回集められる部隊のほとんどはラジオ塔を占拠するために用意されたわけじゃないと思う」 「どういうことだ?」 「奴らの作戦が成功した際、いくら世の中が混乱に陥るとはいえ、ラジオ塔を奪還、もしくは破壊するために動く人間がいないとは考えがたい。だから、少なくとも作戦遂行中はラジオ塔を守る人員が必要だろう。そして、流される電波があのときと同じものだとすれば、奴ら側のポケモンも行動不能になる。もし集められた人員の多くが人間ならば、それは多分間違いない」 「分かった、調べよう。もし敵がほとんど人間なら、戦力はポケモンに大きく劣る。守るのは容易か」 「そういうこと。守ることは多分難しいことじゃない。問題は、先に先遣部隊なり何なりにラジオ塔を制圧されてしまった場合だ」 僕はそういってポケギアを操作し、資料を広げる。 「これによると、ラジオ塔側に僕達側の伝手は無いんだよな」 「ああ、それはつい数時間前に話が変わった。プロデューサーの一人から協力を得られそうだ」 「へえ。もともとラジオ塔に知り合いなんかはいなかったんだろ? どうやったんだ?」 「単純に、倫理や立場より話題と視聴率が好きな人間に今回の話の一部を明かしたのさ。そしたらいい特ダネになるとノリノリだ」 「まったく、ろくな人間じゃないな……。まあ、今回に限って言えば好都合か。ならどこかに事前に僕達を潜入させてもらうってことはできないかな」 「相談してみよう」 「よろしく頼むよ。もしこれができれば先手を取れるのは約束されたようなものになる。後は、もし突破された際の話だけど、……」 そうして、僕が計画をすべて話し終えると、シルバーは重々しくうなずいた。 「あとは情報を待つのみか」 「そうだな」 「じゃあ今日はここで解散だ。また後日連絡する」 「……ああ。じゃあ、また」 僕はそう言って、香草さんとやどりさんとともに部屋を出た。 入り口のところで、先ほどシルバーの傍らにいたおじさんを見つけ、軽く会釈する。 いったいこの人は何者なんだろう。 僕はそんな疑問を抱きながら、その場を後にした。 そこから数日、僕達はひたすらポケモンセンターで時間を潰していた。 連絡は未だ無く、しかしいつ作戦が始まるか分からないから動くわけにも行かず、トレーニングもできない。 そして香草さんはやどりさんがいるにも関わらず常にいちゃいちゃしようとしてくるから困る。 どうも人がいるところでいちゃいちゃするのには抵抗が…… それに、特に一緒に旅をする仲間の前というのは。 やどりさんは僕達の様子を見せられて不満げだし、香草さんもいまひとつ僕が煮え切らないのを見て不満げだ。 香草さんには申し訳ないけど、こんなときくらい自重してもらえると助かるんだけどな。 彼女のぬくもりを肌で感じながらそう思う。 「ねえ、ゴールド、大丈夫よね? 死んだりしないわよね?」 香草さんが甘く耳元で囁く。 何度目変わらない、彼女の問いかけ。 その言葉の裏に、この計画に参加するのをやめてほしいという彼女の叫びが聞こえる。 「大丈夫だよ。生き残って見せるさ。絶対に」 僕はその叫びから耳を反らし、また何の役にも立たない、祈りにも似た言葉を重ねた。 752 名前:ぽけもん 黒 27話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01 24 28 ID 7CNDPUVs [4/9] 数日後、ラジオ塔内部。 僕達は機材搬入車に入り、難なくラジオ塔の内部に潜入した。 ロケット団の襲撃の日は確定してはいないが、ロケット団の集まり具合や資材の流れから一両日中に行われることがほぼ間違いなくなったので、例のプロデューサーの手引きで内部に潜伏することとなったためだ。 埃臭い、普段は倉庫となっていて、人の入らない資材置き場の一角。 その入り口から死角となる最奥部が、僕達の詰め所となっていた。 そこで僕達は数日前会ったメンバーの一部と再開を果たし、そして作戦を説明する。 もちろん、盗聴防止のため電波探知がかけられ、そして独断での行動を禁止することで、作戦が外部に漏れることを防止してある。 僕の説明を、皆が険しい顔をして聞く。 ちなみに、僕がこの作戦の立案者だとは伝えられていない。 僕はただの仲介役ということになっている。 シルバーと違い、あの演説のように参加者の不安を抑えることなんて僕にはできない。 説明が済んだ後も皆緊張でか言葉少なかったけど、数人、他愛の無い雑談を交わす者もいた。 集められた時は張り詰めていた空気も、何の続報も無く数時間も待機させられたら緩みもする。 どことなく、「もう、今日は来ないんじゃないか」という空気が漂い始めた、そんな頃。 大音量で通信が鳴り響く。 「ロケット団潜入との情報あり。至急行動開始せよ」 そんな簡素な情報に、僕達は一瞬で総毛立つ。 先手を打たれた? いや、まだ予想の範囲内、いかようにも挽回できる。 しかし僕達が潜入したその日にロケット団が行動を起こしてくるとは。 僕達側の情報網がさすがと言うべきなのか、それとも、敵方の行動の迅速さを褒めるべきなのか。 ともかく、僕達は一斉にそれぞれの持ち場へ向かって走り出した。 まわしてもらった監視カメラの映像には特に敵影は無い。 おそらくまだ進行の初期。排除はたやすい段階だと思われる。 持ち場に合わせて僕達は暫定的に四グループに別れ、担当する持ち場のない余剰人員が予定外の会敵時の対処や内部の人間に対する状況説明、場合によっては持ち場を持った人員に代わって鎮圧を担当することとなっている。 初めはやどりさんを足止めに配置しようかと思ったけど、思ったより人員があまったので僕とともに行動してもらうことにした。 なので僕は香草さんとやどりさんの三人で行動することになる。 早速ガスマスクをつけたロケット団員と、スモッグを吐き散らすマタドガスに出くわした。 「やどりさん、ハイドロポンプ」 やどりさんの放つ激流で毒ガスごと押し流した。 こっちはとっとと所定の位置に全員を配置しなきゃいけないんだ。いちいち構っている暇は無い。 拘束は手が開いている者に任せることにして、気絶しているロケット団員を横目に、僕達はひたすら突き進む。 その甲斐あってか、さらに数人のロケット団員を倒した後、順当に全員を予定の配置につかせることができた。 本格的な戦闘があちこちで開始したようで、はあ、と僕が一息つく周りで、怒号が響き渡っている。 「そうだ、急がないと」 一応、シルバーと協力者が偉い人に話をつけてくれているはずだけど、念のため見に行ってみようか。 見取り図をみて、局長室へ向かってみると、机を挟んでシルバーほか数人と局長と思われる人が向かい合っていた。 「話は分かった。だが、君達が下の連中と共謀してないとどうして言い切れる?」 入るなり、局長らしき人の厳格そうな声が聞こえてくる。 これだけの人数の得体の知れない人間を前にして、まったく臆すことなくこんな台詞をいえるなんて、なかなか肝の据わった人だ。 ランは僕たちに気づくなりこちらを睨んできたが、シルバーがちゃんと言ってあったのだろう、僕たちに襲い掛かってくるようなことは無かった。 「あなたの言い分も尤もです。だが、今それを証明することは不可能だし、事態は一刻を争うのです」 一方こちらは、例のシルバーの傍にいた男が交渉役になっているようだ。 確かに、シルバーは交渉役には不向きだろう。 753 名前:ぽけもん 黒 27話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01 25 08 ID 7CNDPUVs [5/9] 「証明できない、時間も無い、だが信じろ、か。無理を言う」 「無理を承知で言っています。それに、先ほどから警備と連絡がつかないんでしょう?」 それを聞いて、局長は少し顔を歪めた。 「おそらく、ロケット団にやられたのでしょう。今このビルが占拠されていないのは、うちの者が各所で奮戦してくれている結果です」 「ふん、仲間を本気で攻撃する馬鹿はいまいよ」 局長はあくまで譲らないようだ。確かに、僕達がロケット団とグルじゃないと証明する手段もない。 部屋に怜悧な空気が張り詰めるなか、一報の通信が入った。 「た、対空部隊です。敵地上部隊の雷の乱発により、飛行ポケモンが使えません! 同時に、敵ポケモン数人がその中を雷の中を突破、突破、窓を破って構内に侵入されました!!」 「分かった。対空部隊はこちらも雷で対抗しろ。これ以上敵を中に入れるな!」 外はそんなことになっていたのか。 窓の無い場所を走ってきた上に、戦闘音で雷の音も聞こえなかったから気づかなかった。 ラジオ塔の周囲での雷乱発に、窓を破って進入とは、敵もなりふり構わなくなってきた。 これは僕達の防衛が上手くいっていることの証明であると同時に、敵が物量に任せて短期決戦を狙ってきてあるということでもある。 しかし対応が迅速すぎる。 もうしばらくは無理に突破しようと無駄な兵力と時間を浪費してくれると思っていたのだけれども。 敵もこのような事態になってもいいよう、対応策を考えてあったのだろうか。 「ふん、そちらの自慢の戦力というのも大したこと無いな」 「大したことない戦力ですから、ラジオ塔側の協力が必要となるのですよ。今の通信でお分かりのとおり、もう事態は切迫しているのです」 そう言われて、局長は苦々しげに顔を歪める。今、彼の内ではさまざまな感情と思惑が渦巻いているんだろう。 そして、数十秒の沈黙の後、彼は机に備え付けの端末をなにやら操作した後、口を歪めた。 「……分かった。だが停波はできん。こんな事態を報道せずしてどうして報道機関を名乗れようか」 部屋に張り詰めていた空気が少し緩んだのを感じる。 おそらく、話がつかないようであれば力ずくでことを進める気だったのだろう。 「では、全隔壁閉鎖のほうは」 「もう通知した。まもなく閉鎖されるはずだ。職員への退避命令もな」 局長はそういって腰を上げた。 あわせて、部屋にいた全員が局長室を退室する。ここもまもなく封鎖されるだろう。普段ならここに篭城すれば安全だが、ラジオ塔崩落の危険がある今は、ここはただの頑強なだけの棺桶になってしまう可能性がある。 「では、私は避難させてもらう。後は勝手にやれ」 「いいんですか? こんな大事件を現場で体験しなくて」 散々言われるだけ言われた仕返しか、男が皮肉気に言う。 「体験している者はもう十分にいる。それより頭が火中にあっては手足もまともに動かせんだろ」 彼はそう言って、意地悪げに口角を上げた。 部屋にいた大半は局長と一緒に脱出するようで、僕やシルバー達数人と別れた。 これで打てる手は打ったけど、戦いは終わりでもなんでもない。 ロケット団を全滅させるのが理想だけど、それが無理でも、少しでもロケット団に打撃を与えたい。 それに、今作戦には幹部も参加しているはずだ。 それを見逃す手は無い。 先ほどの連絡にあった、雷の嵐の中を切り抜けて突入してきたそれが、只者ではないことは想像に難くない。 幹部、ないしはそこそこの立場にいる人間であることはほぼ間違いないだろう。 今のところ、各所に配置した人員から特に連絡はない。 つまりまだその幹部と会敵してはいないということだろう。 守っている人員を排除して、突破口を開くことが進入の目的ではないとしたら、あの大量の下っ端は陽動と割り切り、隠密行動――というには大分派手だけど――で、放送室に向かい、例の電波を流してしまうことが目的と考えられる。 ならば向かう先は決まっている。 通信機に向かって呼びかける。 「みんな、さっきの通信で分かってると思うけど、局内にかなり場慣れしていそうな敵が侵入した。みんな背後にはくれぐれも気をつけて作戦を続行してほしい。もし見かけたら、必ず通信してください。すぐに増援を送ります」 通信機からは了解、隊長という声が聞こえてくる。 恥ずかしいのだけれど、作戦を説明したからか、みんなは僕をからかうように、隊長、と呼んでくる。 それを聞いて、シルバーがニヤニヤしてこっちを見てきた。 糞、自分だってリーダーなんて呼ばれてる癖に! ともかく、その間にも僕達は進み続け、そして目的の場所にたどり着いた。 754 名前:ぽけもん 黒 27話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01 26 17 ID 7CNDPUVs [6/9] 通信施設へと続く通路。 ここは防火扉をかねた無数の隔壁で完全に封鎖されている。 そこを塞ぐ鋼鉄の壁が見事に打ち破られていた。 辺りには腐臭が漂っている。 これは……毒か? どうやら侵入者は毒で隔壁を溶かして突破したらしい。 やどりさんに頼んでこびりついた残りを除けてもらい、穴の開いた隔壁を通り抜ける。 まずい。隔壁さえ降りれば簡単には突破されないと思っていたのに。 とにかく道を急ぐ。 皆異常を訴えていないから、毒ガスが充満したりしてはいないらしい。 進むにつれて、また妙な臭いがしてきた。 破られた隔壁を更に抜け、広いオフィスに抜ける。 視界の先が紫色の霧で埋まっている。 やどりさんのハイドロポンプで押し流す。 もやの向こうに、数人の人影が見えた。 「イドロ、ガドータ、ヘドロ爆弾」 もやの向こうから男の声が聞こえ、その直後、二つの黒い塊がもやを突っ切って飛んできた。 ヘドロ爆弾は着弾と同時に炸裂し辺りに有毒のヘドロを撒き散らす。何かに隠れないと。 咄嗟に遮蔽物を探すが、めぼしいものが無い。 「ラン、火炎放射で打ち落とせ」 二つのヘドロの塊は灼熱の火炎に包まれ、灰となって消えた。 「だ、誰だ!」 僕は煙の向こうに呼びかける。 「ハシブト、風起こし」 今度は羽ばたきの音に続いて、紫煙が突風とともにこちらに向かってきた。 「やどりさん、サイコキネシスで押し戻せ!」 両者の力が中間地点でぶつかり、渦巻く。 行き場をなくした力は窓の強化ガラスを破って、毒ガスとともに外部に流れていった。 煙が晴れたことで、向こうの姿が見える。 全身を粘液で包まれた、二十前半と思われる物憂げな表情をした女性と、薄煙に包まれ、宙に浮かぶ目つきの悪い女性。 その後ろに控えるようにして立つ、黒い服に全身を包んだ――その胸にはやはり血のような赤でRが刻まれている――四十がらみの人相の悪い男と、それに寄り添うようにして、烏の髪と、烏の翼を持った、美しいながらも、明らかに日の下を生きる者とは違う、退廃の空気をまとった、毒婦のような妖しい色香を持つ少女が立っていた。 「まったく、ことごとく我々を邪魔するつもりらしいな。お前等はいったい何だ?」 男が、その容姿に見合った、ドスの利いた声で問いかけてきた。 「反ロケット団、といえば言葉は知らなくても俺達が何なのかは分かるだろう」 「反ロケット団……くっ、随分と面白いことを言うんだな」 「面白いか? 自分の終わりが」 「いや、出来過ぎだと思うよ。俺の人生のストーリーとしてな。まさにおあつらえ向きの障害だよ、お前等は」 「その障害に潰されて死ね」 シルバーの言葉とともにランが火炎を放った。 それをガドータと呼ばれた女性が口からガスを吐き出して応じる。 火炎はそのガスを破れず、消えた。 「不燃ガスか」 「そら、今度は毒ガスだ」 その言葉通り、今度は先ほどと違う種類のガスが放たれた。 「面倒……まとめて、潰す」 やどりさんがそう呟き、ほとんど同時にこちらに流れ込もうとしていたガスが下方向に沈んだ。 同時に相手も何かの力に押さえつけられるように体をかがめる。 それに続いて、周囲の机類が吸い寄せられるように彼らを巻き込む。 そしてかき混ぜられるように机が回り始め、見る見る灰色の濁流となっていく。 「ラン、仕上げだ」 「はい」 その渦にランの火炎放射が加わり、渦巻きは火柱と化した。 「ちょ、やりすぎだろ!」 「何だ? この期に及んでまだ人殺しはいけないとか言ってるのか?」 「それもあるけど、こんなに派手に壊して、ここを廃墟にする気かよ! それに、おそらく相手はヒラの団員じゃないんだろうから、生かしておいたほうが色々都合がいいだろ!」 「……前半はおそらくそのとおりになるが、後半に関しては、心配する余裕はなさそうだ」 いまや溶けてくっつき、何かのオブジェのようになった黒い塊が、突如として弾け飛び、中から粘性の高い液体が噴き出してきた。 「衝撃吸収に耐熱か。本当に便利だな、うらやましいね」 「そりゃどうも」 中から出てきた男が不吉に微笑む。 冗談だろ!? まさかそんな方法であの攻撃を防ぐなんて! 「だが万能ではなさそうだ。その鳥、その泥落とさないと飛べないだろ」 「ああ。それに一張羅が台無しになるという欠点もある」 男はそういって両腕を振り、泥を飛ばした。 「燃えて真っ黒になるよりはましだろうさ!」 シルバーの声に答えるように、ランの両腕から火炎放射が放たれる。 「ああ! それには同感だな!」 それを二人の女性が不燃ガスと不燃泥で防ぐ。いや、それどころか押し返してくる。 755 名前:ぽけもん 黒 27話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01 27 25 ID 7CNDPUVs [7/9] 「やどりさん!」 僕がそういうと、彼女は頷き、中空に右腕を差し出す。 再び、相手に上方向からの圧力が降りかかる。 「ラン、火力を上げろ。周囲の被害もやむを得ない」 ランがそれに答え、熱量を上げた。 炎の色が変わり、その熱波で景色が揺らぐ。 この熱量なら、あるいは。 いや、そうでなくても、炎で包み続ければ、いずれ息が続かなくなって窒息死だ。 後は、下方向から逃げられるのを防ぐために、敵がいる泥の塊を空中に浮かべれば完璧だ。 僕がやどりさんにその意図を伝えようとしたとき、おかしなことに気づいた。 敵の、ハシブトと呼ばれた女性がなんだか揺らいで見えるのだ。 ランの炎のせいだろうかと思い、一瞬で思い直す。 「やどりさん、後ろだ!」 僕がそう叫んだ瞬間、ハシブトの姿は揺らいで消え、やどりさんの背後に現れた。 やどりさんの背中に突き刺さろうかという鍵爪の一撃を、僕がナイフで受ける。 硬質の物同士が打ち合わされる高い音とともにナイフは折られ、僕は弾き飛ばされた。 やどりさんの背中にぶつかり、そのまま二人そろって倒れこむ。 無防備に晒された僕の腹部に、彼女の足が振り下ろされた。 それが僕の腹に突き刺さる前に、香草さんの蔦による横薙ぎの一閃で弾かれる。 翼を広げ体勢を立て直そうとする彼女に、香草さんの蔦が殺到する。 それを両の翼で切り払い、さらに数歩距離をとる。 そこに無数の葉が突き刺さるが、いつの間にかそこに彼女の姿は無く、それは地面に突き刺さっていく。 左右に彼女の姿は無い。 ふと、背筋に寒いものを感じ、慌てて上を見ると、そこには僕に向かって振り下ろされる鋭利な鍵爪があった。 僕の脳に電気信号が閃き、無数の対抗手段が瞬時に浮かぶ。 そしてそのどれもが手遅れだと悟った瞬間、彼女の体は飛来した水球によって弾き飛ばされた。 どっと冷や汗が噴き出す。 ほんの一瞬、彼女が弾き飛ばされるのが遅ければ、今頃―― 視界に火花がちらつき、一瞬、正常な思考ができなくなる。 そのせいで、注意が遅れた。 飛ばされたハシブトは再び姿を消し、一拍の間も置かず、今度はランの頭上に現れた。 シルバーが突き出したナイフを体を捻ってかわし、ランの肩に深々と鍵爪を突き立てた。 それは容易に彼女の皮膚を突き破り、肉を抉り、骨を砕いた。 骨が軋み、砕ける何とも形容しがたい不快な音が、ここまで聞こえてくる。 残るもう片足がランの頭部に突き立てられようというところで、ランの体が火に包まれる。 慌てて逃げようとするハシブトの脚を掴もうとランは無事なほうの手をハシブトの脚に伸ばすが、再びハシブトは消え、その手は宙を切った。 火炎放射が止んだことで毒ガスとヘドロがこちらに向かってくる。 それをやどりさんがサイコキネシスで強引に押し返した。 それに遅れて、ランの絶叫が室内に木霊する。 ランの肩から下はぐっしょりと血に濡れ、腕は力なくぶら下がっている。 「ラン!」 「寄るな!」 慌ててランに駆け寄ろうとしたが、拒絶されてしまった。 しかしランに手当てが必要なのは間違いない。 僕はリュックから応急救護セットを取り出すと、シルバーに放り投げた。 「とりあえずこれで治療してくれ。やどりさん、毒ポケモン二人の相手を頼む。香草さんはやどりさんとシルバーとランを敵から守ってくれ」 体勢を立て直そうとする敵二人に向かってやどりさんはハイドロポンプを放ち、体勢を崩す。 後はハシブトとロケット団の男だけど…… そういえば、敵二人の後ろに控えていた男がいつの間にかいなくなっている。 やどりさんの攻撃で飛ばされたのかと一瞬考えたが、もしかしたら…… 彼女達のはるか後方から、爆発のような音が聞こえてきた。 「しまった! この二人はただの時間稼ぎだ! 本命は奥だ!」 ハシブトはどこに消えたと思っていたら、男とともに奥の隔壁を破壊しに行っていたのか! 先ほどの自在に姿を消すような攻撃方法を見ていたら、こちらはそれに警戒せざるを得ない。 あの攻撃の目的はそうやって僕達の注意をひきつけることだったのか! 「やどりさん、あの二人を頼める?」 毒ポケモン二人は相性の問題もあるのだろうけど、大して強くは無い。もしくは力を温存しているか。 やどりさん一人でお釣りがくるだろう。 「任せて」 「じゃあお願い! 香草さん! 僕と一緒に来てくれ!」 問題はあの悪ポケモンのほうだ。神出鬼没でやどりさんの念力がまともに当たらない上、攻撃力も非常に高く、やっかいだ。 756 名前:ぽけもん 黒 27話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01 27 52 ID 7CNDPUVs [8/9] 「お、おいゴールド!」 「お前は早くランの血を止めろ!」 僕はそう言って香草さんとともにイドロとガドータに向かって駆け出す。 「そんなことは」 「させない」 当然、僕達の前に立ちふさがろうとする二人は、まるで巨大な手に払われたように右方に弾き飛ばされた。 すぐに体勢を立て直した二人に、香草さんは蔦で机を掴み、叩きつける。 「邪魔よ!」 机がばらばらに砕け、二人が一瞬怯んだ隙に、僕達はその脇を通り抜けた。 奥に、隔壁に向かって攻撃を繰り返している男とハシブトが見える。 香草さんは走りながら机を掴み、それを二人目掛けて放り投げた。 机が扉にぶち当たり、反響音が空気を震わす。 机の奥には人の影も形も無い。 後ろか! 僕が振り向きざまにナイフを突き出すと、それがロケット団の男のものと衝突した。 その男に抱きつくようにしてハシブトもいる。 あの女、自分だけではなく、こうすれば仲間も一緒に姿を消して移動することができるのか! 男がナイフを上方に弾くが、そうして開いた胴部に今度は香草さんの蔦が向かう。 二人の姿が揺らいで消え、香草さんの蔦は宙を切る。 「チコ!」 僕がかがむと、彼女はその意図を察してくれたのか、両腕を振り回して蔦であたり一帯を切り払った。 香草さんを中心に、爆発したように机が宙に跳ね上げられる。 「くっ!」 少し離れたところで、渋い顔をした男と、それを抱えた女が出てきた。 「騙し討ちなんて僕達には通用しないぞ!」 「ああ、そうらしい」 そういいつつ、再び男は姿を消す。 何か新しいことをする気か、それともやどりさん狙いか。 同じ手を繰り返すほど単純じゃないとは思うが、それも含めて、裏を読んでいるのかもしれない。 何せ騙し討ちだ。 迷っている暇も無い。 とりあえず、香草さんに指示して、こちらに背を向けて応戦している毒二人目掛けて机を投げつけてもらう。 もろにぶつかり、派手な音を立てる。 攻撃としてはたいしたこと無いけど、意識をそらすのには十分だ。 再びやどりさんのサイコキネシスが発動し、二人は地面に伏す。 さあこれで相手に猶予は無い。 この状況で狙われる可能性の高いのはまずやどりさん、次に僕だろう。 いくらワンパターンと言えど、状況を打開するために相手はそうせざるを得ない。 案の定、敵はやどりさんの頭上に現れた。 そこにシルバーのナイフが突き刺さる。 男は足に傷を負い、慌てて離脱する。 そうこうしている間にも、毒ポケモン二人はどんどん押しつぶされていく。 骨の軋む音と、女性二人のうめき声が聞こえてくる。 「香草さん、後ろ!」 香草さんが蔦を後ろに薙ぐと、ちょうど現れた二人を見事に捕らえた。 床に叩きつけられ、二、三転すると、再び姿を消す。 敵はただ消耗してゆくのみ。 僕達が油断しなければ、負けは無くなった。 「おとなしく投降しろ! そうすれば命は保障してやる!」 僕は大声で呼びかける。 姿は見えないけど、おそらく聞こえているはずだ。 この状況での相手の投降はすなわち敵の作戦の失敗と同義だ。 おとなしくそうなるとは思えない。 でも、そうなれば一番いい。 それはお互いに同じだと思う。 「うふ、もう勝った気?」 艶かしい女性の声がどこからか聞こえてくる。 同時に、やどりさんが押しつぶしていたうちの一人が押し潰された。 大量の液体が噴き出し、つらつらと地面を流れていく。しょうがないこととはいえ、思わず目を背けたくなる。 「もう勝敗は明らかだろ! これ以上の戦いは無意味だ」 「ぼく、ひとついいこと教えてあげる。投降は、強者が弱者に対して呼びかけるものよ」 何を言っているんだ。現にお前の仲間は一人潰されて…… まて、潰されたはずの死体、何かおかしくないか? 大量の体液が溢れて周囲に流れていくのはまだ分かる。 問題はその流れ方だ。 やどりさんに押しつぶされているってことは、敵の周囲の床はサイコキネシスで撓んでいるはずなのに、その部分に溜まっていない。 いや、それどころか、妙にやどりさん側に流れている? まさか、これは―― 「逃げ――」 僕に気づかれたからだろう、やどりさんに近づきつつあったソレは、唐突に大爆発を起こした。
https://w.atwiki.jp/zidori/pages/13.html
あs
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1632.html
202 : ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 12 23 ID XfAuM+yJ 朝。僕は深夜の宣言通り、警察署に向かうはずだった。 僕の知るすべてを告白するために。 集団頭痛事件の影に隠れてしまったけど、僕が立ち会ったあの事件も、市町間通行所襲撃事件として調査が行われている。 僕は実際にそこにいたのだから、事件の参考人としては十分な人間だ。 警察は僕の情報提供を断る理由がない。 そう思い、警察署に向かうはずだっのに。 明け方。僕は窓側からなるコツコツという音に目を覚まさせられた。 薄めを開けてポケギアを見ると、まだ夜と言っても差し支えのない時間だ。 窓の外からは薄紫色の光が差し込んでいる。 何だろうと窓を見ていると、小石が窓ガラスに当たっていた。 やどりさんは隣ですやすやと眠っている。 僕のせいで疲労が溜まっていたんだろう。 彼女には大怪我をさせてしまったのに、そこに鞭打つような真似をしてしまった。 本当に申し訳ない。 ポポはまだ治療中のはずだし、やどりさんは眠っているとなったらこれは一体なんだろう。 悪戯だろうか。こんな朝早くに? ベッドを抜け出し、不用意に確認しにいったのがいけなかった。 窓の外には誰も見えない。 おかしいな、と思って窓を開け、身を乗り出した瞬間。 僕は何かに引っ張られ、窓の外に放り出された。 咄嗟に出そうになった叫び声を、口に入れられた何かで防がれる。 地面に叩きつけられる、と慌てたが、僕の体は地面にぶつかる前に止まった。 半ばパニックに陥り、全身を激しく動かすが、縄のようなものに絡め取られてすぐに身動きが取れなくなった。 「騒がないで!」 やどりさんに気づいてもらおうと必死に呻き声を漏らそうとしていた僕の耳に、よく聞き覚えのある声が入ってきた。 慌てて声のしたほうに顔を向ける。 首は自由だったので向けることが出来た。 「ゴールド」 僕の目の前には、数日振りにみる、ずっと会いたかった顔があった。 「んんんんん!?」 名前を呼ぼうとしたけど、口には蔦が入っているのでそんな声しか出ない。 「しっ! 気づかれるとまずいわ。向こうで話しましょ」 彼女はそう小声で言うと、縛りを解いて、僕の手を取った。 その手を強く握り返し、立ち上がった。 事情を聞くまでは、この手は離さない。 彼女に引かれるままに、無言で歩くこと十分。 僕はずっと話しかけたくてたまらなかったのだけれど、彼女の後姿はそれを許してくれなかった。 「ここなら大丈夫かしら」 彼女はそう言って、とある公園のベンチに座った。 僕も隣に並んで腰を降ろす。 そしてようやく口を開いた。 「一体今まで何してたのさ、香草さん!」 数日振りに呼ぶその名前。 僕の目の前には、溌剌とした香草さんの姿があった。 僕が最後に目にしたときと今の香草さんとでは、若干風貌が変わっていた。 思い出される壮絶な記憶。 アレだけやどりさんにボロボロにされたにも関わらず、今の香草さんには傷一つ見えない。 衣服も新しいものになっていた。 そして何より、彼女のトレードマークでもあった頭の上の葉っぱが無くなっていて、代わりというわけではないだろうけど、二本の触覚のようなものが頭から突き出している。 首には花飾りがぴったりと巻かれていた。 これは大怪我のせいではない……よね。 進化したのだろうか。 203 :ぽけもん 黒 23話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 13 11 ID XfAuM+yJ 一瞬間に色んなことが脳裏を駆け巡る。 僕に話しかけられた途端、彼女は頬を染め、全身を震わせた。 「……っあ、ゴールドに名前呼んでもらうのも、久しぶりね」 感極まった様子でそう答えた。 彼女の表情はここ最近のものとはうってかわって、まるでつき物が落ちたかのように穏やか?だ。 あれから数日、香草さんにいったい何があったんだ? 「香草さん、質問に答えてよ!」 少し強めに発した僕の言葉に、彼女は溶けたような瞳を僕に向けた。 彼女は全身から蔦を伸ばし、全身で僕に抱きついた。 「……はぁ、会いたかった。会いたかったよ、ゴールド」 暖かく柔らかな感触が伝わり、鼻腔一杯甘い香りが広がるが、僕が抱いたのは悪寒だった。 何だ!? この……何だ!? 香草さんの様子が明らかにおかしい。 いや、おかしいのかな。 おかしいよな。うん、おかしい。おかしい。 しかし内心でいくらそんなことをかみ締めてもしょうがない。 「か、香草さん!? 一体どうしたのさ! あれから何があったの?」 「……ぁあ、ゴールド、ゴールドゴールドゴールドぉ!!」 しかし香草さんは感極まった様子でブルブル震えるばかりだ。 振りほどこうにも、蔦は痛くは無く、しかしびくとも動かない絶妙な力加減で僕と香草さんを密着させている。 朝の散歩だろうか、公園を通りかかったおばさんが、僕達を見て眉をひそめて足早に過ぎ去っていった。 違うんです。これは多分そういうのじゃないんです。 そんなことを分かってくれるはずも無く。 そのまま僕が香草さんに何を呼びかけても答えてくれないのが数分続いただろうか。 満足したのか、ようやく香草さんは僕から少し離れた。 「あ、あの、これは違うんだからね!」 一体何と違うんでしょうか。 「その、これはゴールドのことが好きだからってわけじゃなくて、いや好きなんだけど、とにかくそういうわけじゃなくて……」 ちょっと待ってください。今なんとおっしゃいました? 「……あーもう! 好き! 大好き! 毎秒毎分毎時間毎日毎月毎年ずっと会いたかった! 好き好き好き好き好き好き好き好き……っはぁ! ごーるどぉ!」 いやあなた僕と会ってからそんなにたってませんよね? 毎月毎年思うのは不可能ではないんですか? 再び抱きついてくる彼女の前で、僕はただひたすら混乱していた。 好き? 香草さんが? 僕のことを? これは何の冗談だろうか。 彼女は重度の錯乱状態にでも陥っているのかな。 いやでもこんな錯乱だったら大歓迎っていうか…… ってそうじゃない! 「香草さん!」 「んー? なぁにぃ?」 僕が言うと彼女は少し僕から離れ、僕と見つめあう形になった。 微笑む彼女は、ちょっとびっくりするくらい可愛かった。 「あ、あの、一体どうしたの?」 「どうしたのって、どういうことー?」 相変わらず彼女はにまにまとご機嫌だ。 「ど、どういうことって、変というか……」 が、僕がそれを言ったことで彼女の様子は一変した。 「へ、へへへ変!? ど、どこが!? どこが変なの!?」 彼女の顔から笑みと紅が消え、青ざめた顔で必死に僕に問いかける。 両手で握られた僕の肩が瞬時に悲鳴を上げた。 「わ、私おかしい? おか、おかしくないよ、おかしくなんか……」 ……おかしい。 「そういう意味じゃなくて、随分様子が変わったみたいだから!」 肩の痛みを何とかごまかし、早口に言った。 「そ、な、私変わった?」 まずい、また別の地雷を踏んだのだろうか。 「い、いやどうだろうか」 「あ、あのね! 私ね、自分の気持ちに素直になることにしたの」 204 :ぽけもん 黒 23話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 13 58 ID XfAuM+yJ 「素直に?」 「うん。……私、ゴールドのことが好きだったの」 彼女はそう言いながら視線を少し僕から外し、恥ずかしげに、少し体をよじる。 「でも、恥ずかしくて、素直になれなくて、それであんなことになっちゃって……それで私決めたの。素直に自分の気持ち伝えようって!」 そういう香草さんの顔は朗らかだけど、どこか違和感を覚える。何かよくないものを感じる。 なんというか、突き抜けた明るさというか……越えてはいけない一線を越えてしまったような……いや、それは言いすぎか。 でも、今の香草さんが自分に素直になった結果だとしたら。 「じゃ、じゃあ、僕のことを好きっていうのは本当なの?」 香草さんの顔が一瞬で真っ赤になった。 「あ、あああのね、その……うん、好き。私、ゴールドのことが好き! すきなの! ゴールドと離れたくない。いっしょにいたい。……ダメ、かな」 信じられなかった。 まさか香草さんから告白されるだなんて。 「ダ、ダメジャナイ! ダメジャナイヨ!」 「本当に?」 「うん、僕も香草さんのことが前から気になってて……僕でよければ、僕と付き合ってください」 言った瞬間、香草さんの双眸に涙が溢れた。 顔を真っ赤にして、両手を口に当てている。 「夢じゃないよね。夢じゃないよね、ゴールド」 そういわれると急に夢のように思えてきた。 「う……ん夢じゃないと思う」 「ゴールド、私信じていいんだよね? 嘘じゃないんだよね?」 これには自信を持って答えられる。 「うん。嘘じゃない。僕は香草さんのことが好きだ」 「ごーるどぉ!」 再び抱きつかれた。 時々しゃくりあげる音で、彼女が泣いているのが分かる。 「ずっと不安だった。ゴールドは私のこと好きでもなんでも無いんじゃないかって。……ううん、ゴールドは私のこと、嫌いなんじゃないかって」 「そ、そんなわけ……」 「だって、私、今までゴールドに随分酷いことしてきたもん。嫌われても文句言えないようなこと……ああゴールド、本当に嘘じゃないのよね?」 「香草さん」 僕はそう言って彼女から少し離れた。 「ゴールド?」 瞳を滲ませ、不安げに僕を見る彼女の桜色の唇に、僕は口付けた。 香草さんの唇は温かくて、とても柔らかくて、目をつぶっていても、彼女が慌てているのが伝わってくる。 ほんの一瞬か、それとも数秒の間か。 分からないけど、とにかく、僕にとっては長大に感じられる口付けをやめ、少し退いて彼女を見る。 彼女は目を大きく見開いて、顔を真っ赤にしていた。 「これが僕の気持ちだよ」 努めて平静を装いそう言ったが、内心は僕もかなり照れて、自ら行った行為にも関わらず、軽く混乱していた。 顔が熱い。胸の鼓動が頭の中までガンガン響く。 少し離れたことで、むしろ彼女と抱き合っているという事実がまざまざと実感させられ、余計恥ずかしくなってくる。 少しの間、彼女はそのまま固まっていた。 が、はひゅ、という空気の漏れるような音を発した。 同時に、全身の力が抜け、崩れ落ちそうになるのを、僕は咄嗟に支える。 蔦が緩み、拘束が解かれ、抱きしめられるのは終わったけど、今度は逆に僕が抱きしめ返している。 「香草さん!?」 「ひゃあぁ……ごぉるどぉ……」 僕の問いかけに、彼女は寝言のような力の無い声で答える。 いや、多分これは僕の声に答えたんじゃないだろう。 彼女の正気はここではないどこかを遊泳中のようだ。 もしかして僕のキスが原因なのだろうか。 僕も相当に緊張したけど、それでもここまでじゃない。 なんだかこっちまで恥ずかしさが増してくる。 結局、彼女が正気を取り戻すまで数分かかった。 「……ぁ……ゴールド……」 彼女は僕の腕の中でまた呆けたような声を上げたと思うと、急に僕を突き飛ばして起き上がった。 「うわぁ!」 不意を突かれた僕はそのままベンチから落ち、体を打った。 205 :ぽけもん 黒 23話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 18 21 ID XfAuM+yJ 彼女は起き上がったまま暫し呆然としていた。 僕は地面に倒れたままそんな彼女を呆然と見ていた。 「……あ、ご、ゴールド、あの、これは違、違うの! 不可抗力っていうか……」 「大丈夫、分かってるよ」 彼女が慌てて弁明を始めると、僕は起き上がってそれを止めた。 「僕のほうこそ、ごめんね。急にキスなんてしちゃって。嫌だったかな」 「そ、ち、違、そんなわけ……ないじゃない! すごく嬉し、嬉しくなんか……嬉しくて、それで、あの、その……」 彼女は一人でしどろもどろになっている。 可愛いような、可笑しいような、少し怖いような。 「……もっとキスした、したい……べ、べべべ別にもっとゴールドとキスしたいとか、そういうんじゃ……な……い……わけでも……な、い……」 しどろもどろ過ぎてもう何がなんだか分からなくなっている。 素直になることにしたというけど、まだそれに慣れていない……のかな。 「あ! だからって軽い女だと思わないでよ! そ、その、私の唇は安くないんだからね! あ、でもキスはもっとして欲しいっていうか……」 なんだかすごく微笑ましい気持ちになってきた。 少し落ち着きを取り戻し、元の話題を思い出した。 「そうだ、それで、今まで何があったの? 教えてよ」 「……どうしてもキ、キスしたいっていうなら、させてあげなくも無いっていうか……って、え? な、何?」 どうやらまたトリップしていたらしい。 ちょっと呆れて、変な笑いが出る。 「あ、何笑ってんのよ! 私何かおかしなこと……もしかして、私とキスするの、いや、とか……」 「ち、違うよ! そうじゃなくて、僕が香草さんは今まで何してたのか聞いたのに、上の空だったのが可笑しかったから」 206 :ぽけもん 黒 23話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 19 37 ID XfAuM+yJ 「なんだ、そうよね、嫌なわけないわよね。だってゴールドは私のことがす、すっ、……なんだから……。そ、それで、私が何してたかだっけ? 私はあの糞女に……ちょっと戦略的撤退してから、当ても無く街をさまよってたの。 自分でも考えがまとまらなくて、どんな道を通ったかも覚えてないわ。なんだか全部が背景って感じで……それで、多分、どうしてこんなことになったのか考えてたの、私はゴールドのことが好きなのに、どうして……って。 それで、気がついたら男の人と女の人の二人組みがいて、それで二人して好き好き言い合ってたの。とても幸せそうで……よく見たらそ、それがわ、わた、私と、ゴールドで……それで、私も素直に好きって言えたら、幸せになれるのかなって…… ホントに幸せになれた。夢みたい……夢じゃないよね、ね、ゴールド。あ、それで、そんなことを考えていたら、気がついたら今度は真っ暗な道に、自分だけが立っていたの。 いつの間にかゴールドと私は消えてて、なんでこんなところにいるのかわからなくて、急に怖くなって、そしたら体中が急に痛くなって、血まみれて、寂しくて息がつまりそうで……何度もゴールドのことを呼んだの。 でも、私は一人のままで……それで私はようやく気づいた。私はゴールドのことが好きだって。あの胸の苦しさは好きが原因だったんだって。そしたら急におかしくなってきて。馬鹿なことだって笑ったわ。私、そのときまで自分の気持ちも分かってなかったの。 くだらない意地を張って、つまらない見得を張って……そうして残ったのはだあれもいない真っ暗な道に一人蹲るボロボロの私。悲しくて、可笑しくて、泣きながら笑ったわ。それで、決めたの。今度は、きっと素直になろうって。 正直に自分の気持ちをゴールドに伝えようって。こんな寂しい道に一人でいるなんて耐えられなかった。ゴールドがいなきゃ駄目だって。そう思った瞬間だったわ。目の前に光が見えたの。体が温かくて、気持ちよくて、気がついたら、体が楽になってた。 そして、道の先に光が見えたの。あれはゴールドだって。あの光の先にいるのはゴールドだって。私は確信した。そして、その光の方向に歩いたの。ただゴールドに会うことだけを考えて、ひたすらに歩いたわ。どんな道を通ったかなんて覚えてない。 私が覚えてるのはあの光と、あの光に辿りついたとき、どうするかっていう想像だけ。光に向かって歩きながら、何度も何度も考えて……気がついたらこの街にいて、それでふと自分の格好を見たらすごくボロボロでみすぼらしくて、 こんな姿を見せたらゴールドに幻滅されちゃうんじゃないかって怖くなって、新しい服を買って、ゴールドに会いに行こうと思ったの。でも、いざとなったらやっぱり怖くて……ポケモンセンターの裏でずっと震えてた。 でもやらなきゃって、やらなかったら一生私はこの暗い道で独りぼっちなんだって。あの部屋にゴールドがいるんだ、って。そこからはシミュレーションどおりに行動して、そしてゴールドに告白されて……ああ、ゴールドぉ、会いたかったよう」 彼女はそれを一息に話し終えると、僕の胸に飛び込んだ。 僕が彼女をしっかりと抱きとめたが、内心は複雑だった。 夢みたいな話だ。 彼女が僕を好きということに対してではなく、彼女が語った話の内容が。 幻覚を見て、まるで夢遊病者のように振舞って、そして気がついたら僕のところに辿り付いていたなんて。 行動もそうだけど、話の内容も夢を見ているような感じで、現実感に乏しい。 しかし実際に彼女が目の前にいるという結果がここにある。 僕は正規のルートからは大幅に外れていて、とても自然に会えるような場所にいなかったのにも関わらず。 ちょっと気が変になりそうだ。 「あぁ、ゴールド、ゴールド」 僕に体をこすり付ける香草さんから漂う甘い匂いが、僕の正気を繋いでいた。 それで、一つおかしなことに気づいた。 「香草さん、そういえば一昨日、酷い頭痛がしなかった?」 そうだ、彼女もあの頭痛を体験しているはずなんだ。だけど彼女の話には一言も出てこなかった。 「頭痛……?」 香草さんは不安げな、不思議気な表情で答えた。 「うん。立ってもいられないくらいの本当に酷い頭痛。どうもポケモンは皆それを体感したみたいなんだけど……」 「ごめんなさい……分からない……」 香草さんは本当に申し訳なさそうに答える。 207 :ぽけもん 黒 23話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 20 36 ID XfAuM+yJ 「すごく煩くなったのだったら……多分……分かるんだけど」 「うるさくなった?」 「う、うん。ポケモンセンターの裏で蹲ってたら、急に騒がしくなって……でも、酷い頭痛は無かった……と思う……」 ……ちょっと待て、騒がしくなってって、それがもしかして例の頭痛騒動なんじゃないか。 それだとおかしい。辻褄が合わない。 僕がこの丁子町のポケモンセンターにたどり着いたのは多分一昨日の昼過ぎから夕方までの間だ。 頭痛騒動が起こったのはどこでも同時と考えればここでも昼頃起こってた。 同時じゃなくても、どの道僕がこの町に着く前にはこの町に騒動が起こってた。 だとすると、僕を頼りにここにきたのは、僕がここに来る前ということになる。 いない僕を目印にここにきた。 ……まるで、僕がここに来ることを予知していたみたいに……。 ますます頭がこんがらかってきた。 同時に、気分が悪くなってくる。 なんだこれは。 そもそも、香草さんが僕を頼りにってところからおかしな話といえばおかしな話だ。 だからこれは最初から荒唐無稽なただの偶然と片付けることもできる。 でも、偶然にしては出来すぎていないだろうか。 いや、出来すぎてるから偶然に思えないだけなのか? 「ご、ゴールド、どうしたの?」 香草さんの呼びかけで思考の坩堝から現実に戻される。 「あ、ああ、ごめん。なんでもない」 不安げに僕の顔を覗き込む彼女に、笑顔を作りながら答える。 しかし僕の顔は引き攣って、それは笑顔とはとてもいえない歪んだものになっていただろう。 それがますます香草さんの不安を煽った様だ。 「や、やっぱり、変、よね? 私気持ち悪いかな?」 「え?」 呆気に取られる僕の前で、彼女の暴走はますます加速する。 「気持ち悪い、私、ゴールド、いや、私、わ、私おかしくないよね? 気持ち悪くないよね?」 彼女自身、若干おかしいという自覚があるのだろう。それがますます彼女の平静を失わせる。 「い、いや、かな。ゴールド、嫌なのかな。変なのは嫌い……いや、いや! 嫌いにならないで! 嫌わないで! やだ、やだやだやだゴールドゴールドゴールド……」 力なく垂れ下がっていた蔦が力を取り戻し、俊敏に全身に絡みついた。 そのまま、彼女の息がかかるまでに引きよせられる。 「ゴー、ルド、私、だ、駄目なの、ゴールドがいないと、私、いや、いや、いや! た、ゴールド、いなくならないで! 私の傍にいて……いてよ!」 「ど、落ち着いて香草さん!」 「痛い、痛いの。寒くて暗くて寂しいの! ゴールドがいないと、わた、私生きていけない……だ、駄目、やだやだやだ、ご、ゴールド!」 徐々に彼女の言葉は疑問から独白、そして嘆願へと変わっていく。 痛々しいまでに彼女は僕を必要としている。 支離滅裂な彼女の言行に、僕は恐怖を禁じえなかった。 目の前にいるのがまるで得体の知れない化物で、全身をその化物に絡みつかれているような…… 同時に、目の前の少女が迷子になって一人泣いている童女のようにも見えてきて、童女の悲痛な叫び声がありありと鼓膜に響いてきて…… 咄嗟に、僕は全霊の力を込めて彼女に抱きついた。 そして万魂を込めて彼女の耳元で怒鳴った。 「いなくならないよ! ずっと傍にいる! 僕は君を離したりしない! だから! だから大丈夫だ!」 彼女は極寒の地に、着の身着のままで一人立たされたように、ブルブルと震えていた。 そして、その振るえが急速に消えていくのが分かる。 彼女の振るえは涙へと代わり、そのまま彼女は泣き崩れた。 僕は、彼女の、攻撃を受け止めるにはあまりにも柔らかな肢体を、一人で荒野に立つにはあまりにも暖かな体を、ずっと力の限り強く抱きしめていた。 208 :ぽけもん 黒 23話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 21 12 ID XfAuM+yJ 「落ち着いた?」 数十分後。 僕に抱きついてしゃくりあげる香草さんに声をかける。 「うん……ありがと」 声はまだ涙声だったけど、僕と会話が可能なんだから随分落ち着いたといえるだろう。 ポケモンセンターを出たときにはまだ薄暗かったのに、辺りはもうすっかり明るくなっている。 やどりさん、目が覚めてたら心配してるだろうな。 昨日まで酷い状態で、これから半ば自首しようとしている人間が突然姿を消してるなんて。 自暴自棄になって自殺……こんな想像をされても仕方ないだろう。 「じゃあ、ポケモンセンターに戻ろうか」 やどりさんが香草さんにやったことを忘れたわけではない。 だから二人を会わせることに不安はあった。 でも、きっと、ちゃんと事情を説明すれば分かってもらえるはずだ。 そう信じたい。 もし駄目だったら、そのときは―― 腫れぼったい目をして、鼻を真っ赤にした香草さんがキョトンとこっちを見ている。 ――そのときは、僕が彼女を守らなくちゃいけない。 また香草さんをあんな目に会わせるわけにはいかない。 香草さんよりはるかに弱い僕が彼女を守るなんて、滑稽に思えるかもしれないけどさ。 僕は彼女に笑顔を向けると、彼女の手を引いて歩き出した。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2634.html
707 名前:ぽけもん 黒 31話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2013/07/15(月) 21 37 32 ID KKK.SerE [10/14] 柔らかな光。 暖かな温もり。 確かな感触。 ポポは幸せに包まれていました。 「おはよう、ポポ。もう朝だよ」 優しい声で目を開けると、そこにはゴールドがいました。 私の愛しい人。私に、全てをくれた人。 ポポは、ずっとひとりぼっちでした。 自分で餌を取れるようになったら独り立ちし、親兄弟といえども干渉はしない。自らの縄張りを誇示し、適当な時期になったらオスと交配し子をなす。 それが、ポポが送るはずだった一生です。 頭のいい生き物達は、そういうところを見て、ポポたちのことを下等な、劣った生き物だとあざけります。 でも、ポポは、そのことに何の疑問も抱いてませんでした。 縄張りを守ることとか、日々の糧を得ることとか、そんなことが、ポポのすべてでした。 何の疑問も持たず、ただ生きることを繰り返す日々。 ポポは決して不幸ではありませんでした。だってそれはポポにとって当たり前のことでしたから。 それは、ポポにとってなんでもない、いつもどおりの行為でした。 人間から荷物を奪って食べ物があればそれを得る。 弱い弱い人間は、格好の狩の獲物でした。 でも、その人間は違いました。 その人間はポポに襲われても怒ることも逃げ出すこともせず、いつもポポへと向けられる蔑みでも怯えでも弱者への憐憫でもない、まっすぐな目でポポを見ます。 ポポは、今までに抱いたことも無い気持ちを抱きました。 そのときは、それがなんだったかは分かりませんでした。 でも今ならはっきりと分かります。 これは愛。 ゴールドは、ポポの運命の人でした。 ゴールドのお陰で、ポポはもう闇に怯えなくてもいいくらい強くなれました。 ゴールドのお陰で、ポポは愛を知ることが出来ました。 ゴールドのお陰で、ポポはそれが愛と理解できるだけの知能を得ることが出来ました。 だから分かったのです。ゴールドと出会う前のポポには何もありませんでした。ゴールドと出会って、ポポは初めてこの世界に生まれたのです。 それを知れたのもゴールドのお陰。ゴールドはポポのすべて。ゴールドはポポをポポにしてくれた人。大切な人。運命の人。 愛おしくて、苦しくて。ポポはいつもゴールドのことを想っていました。だって、ポポのすべてはゴールドのものなのですから。 早く本当に、ポポのすべてをゴールドのものにして欲しい。 ――でも、そんな大切な人の傍には、常に目障りな生き物がいました。 香草チコ。ゴールドと同い年の少女。 獣の勘ってやつですか、ポポは一目見たときから、その女から嫌なものを感じていました。 強いとか弱いとか、自分を害すとか害されるとか、そういった色々を超えた嫌悪感。 そのときのポポには、その嫌悪感の正体を知る由もありません。 でも、今ならはっきり分かります。 あの女は、ゴールドを蝕む害獣だったのです。 あの女は、ことあるごとにゴールドを傷つけました。 そのたび、ポポは酷い苛立ちを覚えました。あぁ、これもゴールドと会う前は知らなかった感覚です。 自分以外の誰かが傷つくのを見て、怒りを覚えるなんて。 それなのにゴールドはあの女から離れようとしません。 あの女も、ゴールドから離れようとしません。 ポポには、それが不思議でなりませんでした。 やどりと二人であの女を痛めつけてやったときには本当にすっとしました。 そのままどこかに消えたときには、もうポポは有頂天でした。 もうあの目障りなメスを見ることは無い。あの目障りな生物に邪魔されることはない。 思う存分、ゴールドと一緒にいられる。ゴールドの隣にいられる。 それなのに、ゴールドのために敵と戦って、それで傷ついて、再び目を覚ましたときには、ゴールドはいませんでした。 本当に血の気が引きました。ガクガクと震えて、まっすぐ立ってることもできませんでした。世界がぐるぐる回って、どうにかなりそうでした。 暴れて、人間に押さえられて、ゴールドが前いた街に戻ったことを聞きました。 この町にはロケット団を追ってきたのですから、もといた街に戻るのは当然です。 でも、どうしてポポをおいていったのですか? どうして、ポポの怪我が治るのを待っていてくれなかったのですか? 急用って、それはポポよりも大事な用事なのですか? ポポには、ゴールドより大事なものなんて無いのに。 ゴールドはそうじゃないですか? もしかして、ポポはゴールドに捨てられた? 負けるような弱いポポはいらない? 大怪我をして、もう以前のようには戦えないかもしれないポポはもういらない? 708 名前:ぽけもん 黒 31話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2013/07/15(月) 21 38 09 ID KKK.SerE [11/14] ゴールドがそんな人間じゃないということは分かっています。 それでも、万が一のその可能性を想像するだけで、恐怖で息も出来なくなります。 でも今のポポの状態では、とても今すぐゴールドの元に向かうことなんて出来ないです。 だからといってじっとしていられない。 無理にポケモンセンターを抜け出そうとして、鎮静剤と睡眠薬を打たれ、恐怖にまどろみながらポポは数日を過ごす羽目になりました。 意識がまともに戻った瞬間、そのままポポはポケモンセンターを飛び出しました。 ひたすらに空を飛びます。 ゴールド。 ゴールドゴールドゴールド。 ゴールドに嫌われていたらどうしよう。ゴールドに捨てられていたらどうしよう。ゴールドに迷惑そうにされたらどうしよう。 想像するだけで胸が苦しくなり、そのまま墜ちてしまいそうになります。 それでも、ゴールドに会いたい。 ゴールドのところに行きたい。 捨てられても、いらないって言われても。 だって、ポポのすべてはゴールドから貰ったものなのですから。 だから、だから早く。早くゴールドの元へ。 街が視界に入ったとき、すぐに異変に気づきました。 高い建物の周りに雷が乱舞し、どうみても普通の様子じゃありません。 あの建物はラジオ塔。前に来たとき、ゴールドから教えてもらいました。 なんでしょう、すごく嫌な予感がします。 ポポの目には、遠くからでも何が起こっているかよく見えます。 ラジオ塔の景色は、どう見てもまともなものじゃありませんでした。 不意に、恐怖が一層強くなります。 ポポは悟りました。 今間に合わないと、ポポは永遠にゴールドを失う。 今間に合わなければ、ポポの人生に意味はありません。 だって、ゴールドはポポのすべてなのですから。 爆発があり、その後、窓の奥にゴールドが見えました。 危ない! ポポは叫んでいました。届かないと知りつつも、叫ばずにはいられませんでした。 ゴールドは黒い何かに押され、外に落ちていきます。 到底人間が助からない高さから、真っ逆さまに。 早く。早く! 今間に合わなければポポのすべてがなくなってしまいます。 ポポのすべてが無意味になってしまいます。 間に合えば、もうそれで消えてなくなっても構わない。体がバラバラに、砕け散ってしまっても構わない。 だからゴールド。ゴールドだけは―― ああこの重さ。この温度。この感触。 ああ、ああ、ああ! ポポの重さ。ポポの温度。ポポのすべて。 間に合いました! ポポが、ポポがゴールドを救うことが出来た! ありがとうゴールド。ポポに救わせてくれて。ポポにゴールドを救うようにさせてくれて。 でも、ゴールドはそれからずっと元気がありません。 ゴールドの大切な人が死んだらしいです。でも、ポポには意味がよく分かりません。 だって、ポポには、ゴールドの他に大切な人なんていないんですから。ゴールドの他の生き物がどうなろうと、ポポにはどうだっていいんです。 だから、ポポはポポの気持ちをゴールドに打ち明けることにしました。 ポポの胸の中には、ゴールドを救うことが出来た達成感と、ゴールドへの愛おしさしかありませんでした。はっきり言えば、舞い上がっていました。 ――だから、ポポは絶望へと落ちることになりました。 ああ、そんな、嘘です! ゴールドが、ゴールドがポポを受け入れてくれないなんて!! ……ポポは思いました。あのいやなメスが、あの害獣が近くにいるから。だから元気がないんですよね? あのゴールドを害すだけの生き物に、ゴールドは苦しめられてるんですよね。 だから嘘ですよね。チコを好きだなんて。愛しているだなんて。 だって自分のことを傷つけるだけのものを愛すなんて、絶対におかしいです。 なのに。どうして、どうしてそんな顔するですか。 どうしてそんなこというですか。 どうして、ポポのすべてなのに、ポポの全部を受け取ってくれないですか。 こわかった。 怖くて、どうにかなってしまいそうだから。 だから、ポポはゴールドに抱きつきました。 ゴールドに思いの丈をぶつけました。 そしたら、ゴールドは分かってくれました! なんとなんと、ゴールドはポポを受け入れてくれたのです! あの女達は要らないって! ポポだけいればいいって! ポポと一緒です! ポポもゴールドだけいれば他に何もいらないです! あとのポポの人生には幸福しかありません。 だから、ポポは目の前の愛しい人に口付けを交わすのでした。 ポポの愛しい人。ポポにすべてをくれた人。 そこは、ポポの望んだ世界。ポポの幸福な夢。 709 名前:ぽけもん 黒 31話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2013/07/15(月) 21 38 43 ID KKK.SerE [12/14] ―――――――――――――――――――――― 「ん、おはようです、ゴールド」 幼い少女の口付けで今日も目を覚ます。 目を開けると、そこには可愛らしい少女の、しかしその幼さに似つかわしくない、淫靡な溶けたような笑顔がそこにあった。 僕はその挨拶に答えることもない。 酷い頭痛がする。吐き気がこみ上げ、胃酸がカラカラに乾いた喉を焼く。まるで悪夢だ。 「うふ、ゴールド、またするですよぉ」 そういって彼女は僕の下半身をいじりだす。 もうこんな生活を送るようになって三日が過ぎた……と思う。あれから三度日が昇り沈むのを見た気がするからだ。だけど、それも定かじゃない。現実か幻覚かも分からない。 僕の体力と精神力は完全に限界を超えていた。 「ゴールドぉ、朝ごはんですよぉ」 そういって彼女は木の実を口に入れ、もぐもぐと咀嚼する。 そうして、ドロドロに溶けた木の実を、彼女は僕の口に口移しで流し込む。 味なんて分からない。もう彼女の体温も感触も、よく分からなくなってしまった。 旅の途中で彼女に抱きつかれて感じたあの温もり。あの時は、確かにポポの暖かさや優しさを感じることが出来たはずなのに。 あの明るく無邪気な彼女と、この目の前の存在は果たして同じものなのだろうか。同じものだとすれば、どうして僕は今の彼女からは何も感じることが出来ないのか。 僕はこれからどうなるんだろう。 分からない。考える力もわかない。 「うふふ、こぼしてますよゴールド。ちゃんと食べるですよー」 彼女はそういって僕の口を舐める。 「ちゃんと食べないと……」 意識が溶けて消えていく。 僕は再びまどろみに落ちた。 洞窟に響く湿った音。やわらかい肉。誰かの嬌声。溶けたようなポポの顔。濃厚な性の臭い。耳元で囁く誰かの声。頭痛。吐き気。身体の痛みと気だるさ。耐え難い苦痛。 何も分からない。 地獄のまどろみの中から、唐突に覚醒した。 まともに意識を取り戻したのは一体いつ振りだろうか。 今がいつであれからどれだけ経ったかなんてさっぱり分からない。 そこでふと違和感を覚える。 いつも僕にまとわりついていたポポがいない。 食料をとりに言ったのかと思ったけどそれも違った。 ポポは、僕と少し離れたところで、殺気立って入り口を睨んでいる。 こんなに怒りというか闘争心をむき出しにした彼女を見るのは初めてかもしれない。 一体何があったんだ。 それを言いかけた僕は、全身を駆け抜けた悪寒で口を噤んだ。 はっきりと分かる。 殆ど思考も出来ないような鈍った脳でも、容易に捕らえられる、いや、閉じた脳を無理やりこじ開けられるような強引さで。夢でも幻覚でも無い。間違えようの無い、暴力的なまでの現実感。 何か、何かとてつもなく恐ろしいものが。 下から、猛然と迫ってくる―― 僕は自分が意識を取り戻したわけを知った。この殺気だ。この殺気と感じたからだ。僕の感覚が、本能が言っている。今正気を失っているとやばい、と。意識の混濁すら許さない、濃密な、圧倒的な恐怖。 同時に気づく。ポポはここでその何かを迎撃する気なんだ。 確かに入り口は一方。確実に来た相手に対応できる。 けど、ここで迎え撃つのは下策だ。 入り口が一つってことは、いざというときの逃げ道がないってことだ。 水や火、または毒ガスなんかを流し込まれたらどうしようもない。 慌てて出てきたところで待ち受けていた敵にやられるだけだ。 が、敵はそんなことしなかった。 「ゴールドー!」 まっすぐ、正面から突っ込んできた。 流れる、萌える春の草原のような髪。パッチリとした、見たものの心を捕らえて離さない、夏の果実のような綺麗な赤い瞳。美しく、彼女を彩るように咲いた花。懐かしい顔、声。 ああ、ああ。 「か……」 涙がとめどなく流れてきて、視界がぼやけた。 日の光を背負って僕の前に躍り出た彼女は、まるで女神か何かのようだった。 いや、彼女は紛れもない、救いの女神だ。 「香草さん!」 「会いたかった、ずっと会いたかったわ、ゴールド!」 ポポのことなんてまるで眼中に無いように、彼女は僕の胸に飛び込んできた。 710 名前:ぽけもん 黒 31話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2013/07/15(月) 21 39 11 ID KKK.SerE [13/14] ―――――――――――――――――― 天国のような日々。 理想とは違いましたけど、それでも、ポポはとっても幸せでした。 「……んぁ」 ゴールドのものがポポの中で脈打った気がして、思わず息が漏れます。 愛おしくて、ゴールドの頬を撫でました。 ああゴールド。素敵です。カッコいいです。 ポポのことを抱きしめてくれなくなったのは悲しいですけど、でもしょうがないですよね、ゴールドは調子が悪いんですもの。 でもゴールドはいつも言ってくれます。 「ポポ、好きだ。愛してる」 「ポポにこうして抱きしめてもらう以上の幸福なんて無いよ」 「今はちょっと体調が悪いけど、でも、ポポと一緒にいればきっとよくなるから、だから心配しないで」 自分が具合悪いときですら、ゴールドはポポのことを第一に考えてくれます。 もう、そんな時くらい、自分の心配をしてください。 ポポは心配ですよ。 でも、きっと大丈夫ですよね。 だって一番大好きな人と結ばれたんですもの。 だからもう大丈夫。 これからの人生には、もう幸福しかないですよ。 ゴールドにキスをします。 ああ、ゴールドの舌、熱い。 こうしていると、幸福でポポは真っ白に溶けてしまいます。 ねえゴールド。ゴールドも今、こんな気持ちですか? ポポと同じ気持ちですか? ……ああゴールド、お腹がへったですね。 いつもみたいに、食べさせてあげるです。 ……もう食べ物が無いです。取ってこないと。 名残惜しさを必死で堪え、ゴールドから離れると、食べ物をとりに飛び立とうとしました。 その瞬間、恐ろしいまでの殺気がポポに向けられたのを感じました。 後悔がポポを包みます。見つかった。今外に出ようとすべきでありませんでした。 この嫌な気配。間違いない。あのメスです。ゴールドを傷つけるあのメス。ゴールドにすがり寄る悪魔。 ポポがゴールドを救ったのに、癒しているのに、それをあの虫けらは……! ふふ、来るがいいです。ここは岸壁の中。飛べないお前なんて、ただの鴨でしかない。狩られるだけの哀れなイモムシ。ポポには追いつけない。 うふふ、ゴールド行きましょう。お前はそこでポポとゴールドの幸せな旅路を指咥えて見てるがいいです。 しかし、ゴールドに近づこうとした瞬間、体が固まりました。 体が動かない。まるで巨人の手に握り締められたような…… この力には覚えがあります。 岸壁の向こう、こちらを見据える歪な塊。 やどり!! そうでした。この女の存在を忘れていました。 ゴールドを害しはしないですけど、ゴールドに求められることも無い。 いてもいなくても変わらない。憐れな女。眼中にもありませんでした。 あの害獣を駆除した後は、はっきり言ってどうでもよかった。 だからここまで放置してきたのに、まさかこんな。 気がついたときには、ポポはあの女の念動力にがんじがらめにされていました。 振りほどけない! 逃げてくださいゴールド、あの女が来るです。 そう言おうとして、ポポは心中で悲鳴を上げました。声すら出せない! ああ、こんなに近くにいるのに、ゴールド! お願い、逃げて!! 唐突にゴールドが起き上がりました。 ゴールド! ポポの思いが通じたですね! ゴールド! 早く逃げるです! でないと、あの女が! それなのに、ゴールドはちっとも逃げようともしません。 いや、それどころか、嬉しそうに入り口の方を見つめるではありませんか! 駄目ですゴールド、あの女の毒に惑わされないでです! そんな目で見ないで! ポポを、ポポを見て! 「ゴールドー!」 ゴールドの顔が嬉しそうに歪みます。 そんなの可笑しいですよゴールド。 ゴールドの口がゆっくり開きます。 どうして! もう何日も、ポポには何も言ってくれないのに! だめです。駄目ですゴールド。やめて。やめてぇぇぇぇぇ! 「香草さん!」 「会いたかった、ずっと会いたかったわ、ゴールド!」 ――ああ、わたしの幸福を引き裂きに、悪魔がやってきた。
https://w.atwiki.jp/blazblue/pages/2417.html
ゲーム内容操作方法 ステージ アクセサリー モードストーリーモード チャレンジモード 攻略TIPS ゲーム内容 キャラクターを操作し、次々に現れる「くろーん」をステージから落としていくゲーム。既存のゲームでいうと無双シリーズ+スマブラシリーズといったところ。 ステージによってはくろーんではない通常のキャラクター、巨大キャラクターなどがボスとして登場することもある。 ゲージは4段階に分けられており、初期がLv0、最大でLv3状態となる。レベルが上がると攻撃が強力になる。レベル3状態の攻撃の吹き飛ばし力はかなりのもの。 ゲージは敵の攻撃を受けることの他にぶっぱなしドライブを使用することでも上昇する。 3回落ちるとゲームオーバー。残機はステージごとに全快する。 操作方法 スライドパッド:移動 L/Rボタン・十字キー:カメラの操作Lでズームアウト、Rでズームイン。デフォルトだと視界が狭いのでズームアウトしたほうがやりやすい。 Aボタン:攻撃連打で連続攻撃になる。Lvが上がると攻撃力が上がる。 ジャンプ攻撃も可能。キャラによっては強力なものも。詳しくはキャラごとの攻略を参照。 Xボタン:ドライブキャラクターごとの固有攻撃。Lvが上がると強力になる。 Yボタン:ぶっぱなしドライブ無敵技。強力だが使用するとLvが1上がる。使用しゲージがLv3を超えると自身が気絶してしまう。 Bボタン:ジャンプ長押しで滞空時間を延ばせる。 ジャンプ中にも通常攻撃ができる。一部のキャラはドライブ攻撃も可能。 ジャンプ時はステージの端、穴などから落下するので注意すること。 ステージ 広さや段差といった基本的な要素に加え、ステージギミックが存在するステージもある。 カグツチポート(昼)平坦なステージ。 ハロウィン棺桶(段差)あり。 カテドラル階段があり、この部分は通路が狭く戦いづらい。 ロストタウン穴があいている部分がある。 カグツチポートステージ後方・右側に通路あり。後ろ方面は段差が高く、中央からこちらにはほぼ吹き飛ばせない。 レールステーション後方に高めの通路がある。中央から後ろ方面に吹き飛ばすのは困難。 通路の上に陣取るとCPUは中央にしか湧かない上にこちらに向かって届かないジャンプを繰り返すので攻撃を受けない。ぶっぱなしドライブでハメが可能。 前方に電車の通る道があり、一定時間経過すると道のライトが赤くなった直後電車が通過。進路上にいると大きく吹き飛ばされる。 コロシアムボス戦時にアステカが出現。一定時間こちらの位置をサーチした後、衝撃波を飛ばす。当たると強制気絶。 ボスも強制気絶するのでうまく利用できると攻略に役立つ。 アクセサリー 装備すると一定時間様々な効果が得られる。一部マイナスに思える効果のものもあり。 名前 効果 Sメダル 一定時間スピードアップします Dメダル 一定時間LVが3になります お面 一定時間スピードダウンします ラオチュウ ぶっぱなしドライブが一定時間使い放題になります うさみみ 一定時間2段ジャンプが可能になります 天玉うどん 体力回復 ばくだん 一定時間経過で爆発し、範囲にいるものを気絶させます モード ストーリーモード REVEL 1 クリア条件:敵を10人落とせ! ステージはカグツチポート(昼)固定。 REVEL 2 クリア条件:敵を30人落とせ! REVEL 3 クリア条件:敵を30人落とせ!→BOSSを3回落とせ! ボスラグナ・ジン・プラチナ・イザヨイ使用時:ノエル ノエル使用時:マコト レイチェル使用時:ジン タオカカ使用時:バング ハザマ使用時:ジン マコト・バング使用時:タオカカ REVEL 4 クリア条件:敵を40人落とせ! REVEL 5 クリア条件:敵を40人落とせ!→BOSSを3回落とせ! ボスラグナ・プラチナ使用時:レイチェル ジン使用時:ハザマ ノエル・タオカカ使用時:ラグナ レイチェル・マコト・バング使用時:ノエル ハザマ使用時:ジン イザヨイ使用時:マコト REVEL 6 クリア条件:敵を50人落とせ! ステージはレールステーション固定 REVEL FINAL クリア条件:敵を50人落とせ!→BOSSを3回落とせ!→BOSSを3回落とせ! ステージはコロッセオ固定。最後のボスは巨大化する。 ボスラグナ使用時:ハザマ ノエル・マコト使用時:イザヨイ ジン・レイチェル・ハザマ使用時:ラグナ タオカカ使用時:ノエル バング使用時:プラチナ プラチナ使用時:マコト イザヨイ使用時:ジン チャレンジモード ステージはコロシアム固定。自分が落ちるまでひたすら敵を落とし続ける。 攻略TIPS 基本的に、ぶっぱなしドライブでとっととLv3にし、ドライブ主体で戦っていく。詳しくはキャラごとの攻略を。くろーんは攻撃範囲の広いキャラが脅威なので(イザヨイ等)、そのあたりを優先的に倒していく。 必ずしも敵を自分で落とす必要はない。敵の同士討ち、ギミックによる落下などでも落とした数に計算される。 ボス相手は技を当ててダメージを稼ぎ、相手がLv3になったところで吹き飛ばしで落とす。通常技などを当ててダウンさせた後、CPUは起き上がりに高確率で無敵技をぶっ放してくるので起き攻めはやめておいた方が無難。 巨大ボスは攻撃パターンがある程度決まっている。ジャンプして着地しタメ、着地時に自キャラがいた方向に向けて突進。 ジャンプして別の場所に着地。 ジャンプして中央に着地。強制気絶。 ストーリーモードの会話中も時間は進んでいるため、ゲージの上の薄い部分(気絶ゲージ?)は会話中に回復しておくと少しは事故が防げるかも。 巨大ボスの攻撃は完全にパターンじゃないかな を1セット、1回落とすと2セット、2回落とすと3セット繰り返す →中央ジャンプ(着地時に地面に強制ピヨリ判定)後しばらくぼったちするのでチャンス 別にぼったち中でなくてもダメージは入れられるが巨大ボスお約束のハイパーアーマーなので注意 ボスのゲージを満タンにするとピヨる。ピヨってる間に一定以上の吹っ飛ばし力のある技を叩き込むと1回KO出来る 因みに巨大ボスはこれ以外でピヨる事はない。氷も姫様のL3風もアステカッターも無駄。(ダメージは入るが) 因みに巨大ボスにLvは関係ないと思われ というか踏まれたりタックルされたりすると大抵即死 -- (名無しさん) 2014-07-03 19 46 11 ジャンプ突進→移動ジャンプな。二行目 半角{}で囲んだのがまずかったか -- (名無しさん) 2014-07-03 19 47 26 追記。 カグツチポート夜の通路は右側から飛び乗れる。駅と違って上にも敵が沸くためぶっぱハメは不可、 というかこの通路、歩いてても普通に墜ちるので行くのはおすすめしない ばとるばとるの頃からそうだがジャンプは何故か垂直ジャンプだと低く、 走りながらだと高くなる。ボタンを押す長さは影響しない。 というか今回は更に「垂直ジャンプからレバー入力で若干浮く」という謎挙動まで増えた。 また、ゲームシステムの為か空中受身は無い。 -- (名無しさん) 2014-07-03 20 12 09 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/kokigame/pages/468.html
ときたまふぁんたずむ 508 :名無したちの午後:2006/04/28(金) 23 20 43 ID XqNVLsSt0 ときたまふぁんたずむ、幽霊が風呂で手コキ、生徒会長で足コキあり。 1回ずつだったけどな。 関連レス
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1577.html
男たるもの、小さいときはTVゲームのような冒険なんかに憧れることがあったと思う。 かくいう俺もその一人なのだが、少し大人になってから冷静になって考えてみると、それは全くいいものでは無い。 勇者はそれなりに強いから勇者になったのだ。現代のインドア派チルドレンではスライムも倒せるかあやしいな。 まぁいいとこでドラゴンでゲームオーバーだろうな。 よって今の俺は「ゲームの世界に入って冒険したい」なんてことはこれっぽっちも思っていない。 しかし、俺の意思とは関係無く事件は起こる。涼宮ハルヒという女がいる限りな。 これは、俺のあまりにもあり得ない、だが本当の冒険記だ。 5月。暑くもなく寒くも無く。最もすごしやすい時期だ。 「平和だ・・・」 俺は今古泉を相手に将棋を打っているところだ。あと5手程度で詰むだろう。 最近事件らしい事件も起こっておらず、古泉が出動したという話も聞いていない。 まぁこれを平和ととるか暇ととるかは人によるだろう。俺は前者だ。 で、明らかに後者であるあの女は今この部室には居ない。それがまたこの平和を安定させている。 トントン 唐突に部室のドアがノックされる。ノックということはハルヒでは無いな。 「はーい」 朝比奈さんがドアへと向かう。今更だがメイド服が反則的に似合っている。 「あ、鶴屋さん」 朝比奈さんがドアを開けると、そこにはSOS団名誉顧問の鶴屋さんが立っていた。 「おっすみくるぅ!ハルにゃんはまだ来てないのかな?」 「涼宮さんはまだです」 「そうかい。君たちに渡したいものがあるんだ。上がってもいいかぃ?」 鶴屋さんが体を横に曲げて俺に聞いてくる。もちろん拒否する理由など無い。 「どうぞ」 「じゃ、ちょっくらあがらせてもらうよっ」 そう言うと鶴屋さんは軽快なステップを踏みながら部室へと入ってきた。 「じゃ、これキョン君に渡しとくよ」 そう言って鶴屋さんが差し出したのは、どう見ても遊園地のチケットだった。それも5枚。 「うちのとっつぁんが開園記念にって大量にもらってきたんだけどね、私は忙しくていけないんだよぉ。だったら君達に譲ってやろうかと思ってね」 「そうですか、ありがとうございます」 俺が礼を言うと鶴屋さんは「いいってことよ!」と言って、さっさと出口に向かっていった。 「開園したてのほやほやだからね!楽しんで来るといいよ!聞くところによると最新技術を駆使した超ハイクォリティなアトラクションとかもあるらしいよっ」 それだけ言うと鶴屋さんは「じゃっ」と言って部室から出て行った。まったく、風のような御人だ。 「遊園地ですかぁ、おもしろそうですね」 「超ハイクォリティアトラクションというのが気になりますね。いまから楽しみです」 朝比奈さんと古泉が各々の気持ちを述べる。というか行く気まんまんなんだな。 俺はこっちに興味無さそうに本を呼んでいる長門に歩み寄り、聞いてみた。 「長門、行ってみたいか?」 すると長門は本から俺に見せるチケットへと視線を移し、それから俺を見て小さな声で言った。 「興味は無い。だがあなたと涼宮ハルヒがそこへ向かうなら同行する」 んー、もっともらしい答えだな。 俺は自分の席へ戻り、さてどうしたもんかね、とチケットをヒラヒラさせていたとき、部室の扉が開かれた。ノック無し。 「さっき鶴屋さんに会ったわよ!遊園地のチケットですって!?見せなさいキョン!」 まぁこの声の主が誰かは言うまでも無いよな? 「ほらよ」 俺はチケットを持っていた左手をわずかにハルヒが居る方向へ傾ける。 その手からハルヒがチケットをひったくり、まじまじと眺める。 「なるほど、明日開園なのね。じゃぁ明日行きましょう」 言っとくが俺はもう「明日なんて急すぎるだろ」なんてことは言わない。 もう一年もこいつと付き合ってりゃわかる。こいつは一度言い出したら聞かないやつだ。 まぁどうせ暇だし、遊園地なら行ってやるけどな。むしろ朝比奈さんと行けるなら喜んで。 「で、何時に何処集合だ」 「10時に開園だから・・・9時に駅前にしましょう。開園の時は逃せないわ」 そういえば遊園地の開園の瞬間なんて見たこと無いな。意外といろいろ学べるかもしれんな明日は。 「じゃぁハイ、チケット配っとくから」 俺はハルヒが差し出したチケットを一枚取る。ハルヒが古泉、朝比奈さんと配った。 ハルヒが最後に長門が呼んでいる本の上にチケットを置くと、長門はその本をパタンと閉じた。おい、長門それは栞じゃないぞ。 俺達がぞろぞろと部室から出たあと、ハルヒは「じゃぁ皆。また明日ね」と言ってさっさと行ってしまった。 こいつも風みたいだな。いや、台風か? 「それでは明日、楽しみにしてますよ」 「じゃぁバイバイキョン君」 「・・・」 そんなこんなで、俺は3人とも別れ。一人帰路についた。 「遅い、罰金!」 翌日、お決まりのように最後に俺はやってきた。にしてもまだ8時45分だぜ?何でお前らそんなに早いんだよ。 「全員分のジュースを買ってきなさい。電車の中は喉が渇くから」 「ヘイヘイ・・・」 俺たち5人は各々切符を買い、ホームで電車を待った。待つ間に俺が5人分の飲み物を買ってくる。750円の出費。 やがてホームに入ってきた電車に俺たちは乗り込んだ。休日だったが、この時間は妙に空いているようだ。 席に座るやいなや、古泉が持参していたバッグから何かを取り出した。 「いまから行くところのパンフレットです。近くのショッピングセンターで配っていましたよ」 とか言っといて、実はかなり頑張って手に入れたんじゃないのか? 「本当にすごいところですよ。日本最長のジェットコースター。日本最高の観覧車。面積も日本最大。とにかく日本最高の遊園地だそうです」 やたら日本一にこだわってるんだな。ああ、ちゃんと凄さは伝わってるさ。 「中でも一番すごいのはこれです。鶴屋さんが言っていたのも多分このことでしょう」 古泉はパンフレットを全員に見えるように広げ、ある一箇所を指差した。 そこには『FINAL FANTASY』と書いてあり、その下に細々とアトラクションの説明文がついていた。 「世界一の技術で世界一お金をかけて作ったアトラクションだそうです。なんでもTVゲームの中に入ったような気分になれるとか」 ほう、それはなかなかおもしろそうだな。スクウェアに許可をとっているか少々気になるが。 「へぇ!すごいわね。詳しく教えて!」 「はい、まずお客・・・私達のことですが・・・が勇者、戦士、魔法使いといったRPGでお馴染みの役に扮しまして 、魔物を倒していき、最後にボスを倒すことを目標とするゲームのようです」 「どうゆうこと?実際に魔法が使えちゃったりするわけ?」 「ええ、実際は立体映像、ホログラムなんですけどね」 「すごい!すごいわねそれ古泉君!」 ああ、俺も本当にすごいと思う。というか嘘じゃないだろうな? 驚いている俺とハルヒとは対照的に、朝比奈さんは何がすごいのか解かっていないような様子で 、長門は最初から興味無さそうに文庫本を読みふけっていた。 「もちろん痛みなどはないので安心ですよ。少々心臓には悪いかもしれませんがね」 古泉がそうしめるのと同時、ハルヒが窓の外を見て言った。 「あ、見えてきた!あれじゃない!?」 ハルヒが指を指している先には、この距離からでも解かるバカデカい観覧車やジェットコースター、その他もろもろが見えた。 「わー、大きいですね~」 朝比奈さんが感動したように言う。もしかしたら未来じゃぁ遊園地はほんの1haほどの空間にあれと同じぐらいの遊園地が作れるような感じになっているのかも知れない。 ドラえもんのポケットみたいにな。 長門も、窓からそのバカデカい遊園地を見ていた。そして驚くべきことにその表情から少し興味の色が伺えた。 話に夢中になっているせいで気付かなかったが、いつの間にか電車の乗客が2倍ほどに増えていた。皆あの遊園地目当ての客らしい。 その遊園地前の駅に電車が止まると、人がゴミのように吐き出された。 電車の中が完璧に無人になっているのを人の波に流されながらもかろうじて確認できた。 「お、おい!離れるなよ!すぐハグれちまうぞ!」 俺がそう言ったのも時既に遅し。 「キョン!みくるちゃんが居なくなってるわ!」 ああ、もうあの人は・・・。 「ふ、ふぇ~、すみませ~ん」 十数分後に無事にホームの端で発見された朝比奈さんは、小動物のような目を俺に向けている。ああ、そんな目で見ないで下さい。倒れそうだ。 「まぁまだ9時50分ですから開園には間に合うでしょう。急ぎましょう」 「はい~・・・」 俺たち5人が人の流れに加わり、遊園地に向かう途中、ハルヒが俺たちに言った。 「良い?開園したらダッシュよ?目的は『FINAL FANTASY』だけよ!一番乗りを狙うのよ!」 ・・・遊園地というのは歩いて回るものだと思ってたんだけどな。 まぁ俺もその『FINAL FANTASY』にはかなり興味がある。ここはハルヒに従うことにしよう。 「あ!なんか開園セレモニー、みたいなことやってるわよ!」 全く、こいつは元気だな・・・。 そうして俺たちは遊園地の入り口。スタートラインへと着いた。 その開園セレモニーってのはなんか蜂っぽいキャラクターが車に乗って、かなり選挙活動っぽく手振ってたり 、校長先生の話の1.5倍ぐらいの長さの園長の話があったりと・・・まぁ充実したものとは言えないな。 しかしそれは余興にも足りないようなどうでもいい事で、メインはその遊園地の中にあるのだ。 『それでは!開園まであと30秒となりました!カウントダウンを開始しま~す!』 何処かおっとりしたお姉さんがアナウンスをする。しかし30秒前からとは早過ぎないか? 「ハルヒ、俺たちのチケットはあっちの入り口じゃないと入れないらしい。近づいておこう」 「解かったわ。みくるちゃん、離れないでね」 俺たち5人は10ほどある入り口の一番右に近づいた。右端2つは前売り、特別チケットを持つ来場者に対応している。 「5!4!」 俺たちが移動している間に既に開園が近づいてきていた。ラスト三秒はハルヒも声をあわせてカウントダウンをしていた。 「3!2!1!」 『開園で~す』 俺は人波に押される形でダッシュすることになった。が、その流れは明らかに左方向へ進んでいた。 その流れから抜け出し、入り口に向かって走り出したのだが、そのときあることに気が付いた。 「あの、入り口。ほとんど誰も使ってないわね」 ハルヒが俺についてきながら言う。息一つ切らしてない。俺は50mも走ってないのに何か疲れちまったよ。歩きが長かったからか。 「ああ、本当だな」 俺たちは難なく入り口へ辿り着き、受付の人にチケットを見せた。 「ああ、VIPの方ですね?園長がお世話になってます」 VIPというのは正当な意味でのVIPであって、『VIP』の前に『ニュー速』とかそんな語句はつかない。 「は、はぁ。VIPですか・・・」 まぁ鶴屋さんだもんな、納得してしまう。あの人ならここの園長とぐらいなら友達のように会話とかしてたりするのかも知れない。 まぁ園長がお世話になってるのは鶴屋さんではなくて鶴屋さんのお父様あたりだろうが。 その好でVIPチケットを譲ってくれたのだろう。 「それでは、このパスケースにそのチケットを入れて、首からおさげください。アトラクションに入るときに係員に見せてください」 俺は受付の人から紐のついた透明なカード入れのようなものを受け取り、言われた通りその中にチケットを入れて首からさげた。 「それでは、ごゆっくりお楽しみ下さい」 「あ、はい。ありがとうございます」 遊園地の入場時に『ごゆっくり』なんて言われるのも何か違和感があるな。確実に『ごゆっくり』出来ないのに。 そして、俺は晴れて入場を果たした。 もう既に入場をすませた4人が、俺を待ってくれていた。 「キョン!周りを見て!誰の入ってないわ!私達が一番よ!で、さらにその中で一番だった私はもう世界最速だわ!」 その程度で世界最速とは自惚れにもほどがある。シューマッハに謝れ。 「どうでもいいからさっさと行くぞ。目的は一つなんだろ?」 「ああ、そうだったわ。ていうかあんたの方がやる気まんまんになってるんじゃないの?」 悪いか?もうワクワクが止まらないぜ。 「じゃぁSOS団総員突撃!あたしに続けぇ~!!」 そう言うとハルヒはカール・ルイス並のダッシュを見せ、もうかなり遠くまで行ってしまった。あ、これもしかしてカール・ルイスに失礼か? 古泉と長門もハルヒに勝るとも劣らないスピードで後を追う。というか長門、何故その走り方でそのスピードが出る?今度走り方を教えてくれないか。 まぁここで朝比奈さんが取り残されるのはいつものことだ。 「朝比奈さん!急ぎますよ!」 本当なら手でも引っ張ってあげたいところなのだが、俺もそこまでする度胸が無い。ちっちぇなぁ、俺。 100mに30秒はかかるんじゃないかという朝比奈さんのスピードに合わせ、ハルヒに追いついたのはもう目的のアトラクションについてからだった。 その『FINAL FANTASY』という名のアトラクションの外見は、よくRPGに出てくる城を模した物だった。 「遅いわよ!こっちの一番のりは逃したわ!」 通常の入り口から入場をすましていた人たちが、小さな列を作っていた。 「まだ10人ぐらいしか居ないじゃないか。一回の開場で全員入れるさ」 俺がそう言った直後建物の中から中世の兵士の扮装をした係員が出てきて、メガホン経由で俺たちに言った。 『はい、それでは『FINAL FANTASY』開場となります。並んでる方、10グループまでお入りください」 俺たちは5グループ目に当たっているらしい。ぞろぞろと人の流れにのり入場、いや、入城した。 入城すると一番最初に目に付くのが、『武器屋』という看板をかかげたカウンターだ。ここで受付をするらしい。 このゲームは金をかけているだけあってシステムも相当凝っていた。 まず入場者は自分の武器を選ぶ。剣、杖、斧など様々だ。都合上飛び道具は無いけどな。 また武器についているボタンを押すことで魔法や、必殺技を使うことが可能だそうだ。これは本格的におもしろそうだな。 俺は運動するのが苦手だから魔法攻撃に特化してるらしい杖を選ぼうとしたのだが、それはハルヒによって防がれた。 「ちょっと!あんたがそれとったら前衛私だけになるじゃない!?ほら、見てみなさいこの3人を!どう見ても白魔道師と黒魔道師と僧侶でしょ!」 んー、その配役に異議を申し立てられないのが悔しい。どうみてもそのまんま白魔道師と黒魔道師と僧侶だ。 まぁ俺は魔法使えない、剣も弱いのへタレ戦士がお似合いなのかもしれないな。 「じゃ、この『普通の剣』ってやつお願いします」 俺が武器のリストを指差しながらカウンターの武器商にそう伝えると、その武器商は棚から1m程の剣を取り出し、俺に渡した。 そのプラスチック製の剣は機械が入っているようで少し重かったが、それでも片手で振り回せるほどだった。 ハルヒの武器も俺と同じく、普通の剣。ただハルヒのものは、くっついている宝玉が赤かった。俺のは青だ。 古泉は白い杖、長門は黒い杖、朝比奈さんは高見沢さんのギターみたいな杖をタダで手に入れた。ここからは係員に誘導される。 「各々の武器を手に入れましたか?それでは貴方達はこれから、魔王を倒すための冒険に出てもらいます。 道中危険なこともたくさんあるでしょうがそこは助け合って見事完全クリアを目指してください」 係員のお姉さんがまるで『ちょっとおつかい行ってきて~』と言うような口調で言う。俺は桃太郎じゃないんだ。 そんな適当な気持ちで命懸けの旅に行かせる気なら、俺は降ろさせてもらうね。 まぁ所詮ゲームなんだからそんなことを気にすることも無い。命かかってないし。 俺たちは係員に誘導されるまま、通路を奥に進み、一つの扉の前に来た。悪魔城か何かの扉っぽかった。 「それでは、ここにお入り下さい。しばらくするとゲームが始まります」 その部屋は真っ暗で、光源は扉から入ってくる光のみだった。感覚で解かるが、広さは教室と同じぐらだろう。 「それでは、ゲーム『FINAL FANTASY』をお楽しみ下さい。 係員は、そう言うと扉を閉めた。部屋が完全に真っ暗になる。 「ちょ、ちょっとキョンいつ始まるの?」 ハルヒがらしくもなく小さな声でそう言ったとき。部屋がパッと明るくなった。 電灯のようなものは見当たらないが・・・ 俺はあたりを見渡して驚いた。壁、天井全体が光源だ。 なんと俺は、いつの間にか城の中に瞬間移動していた。 「これは金かかるだろうなぁ・・・」 良く見ないとそれがただのテレビ画面だと気付かないほどよく出来ていた。 つまり俺たちは今、四方+天井のテレビ画面に囲まれているのだ。 イマイチ雰囲気が出ない原因は俺たちが普段着――今日は長門も普段着だ――に武器、 というヘンテコ格好なせいだろうが、それが無ければ本気で俺は今城の中に居ると錯覚したかもしれない。 ちなみに武器屋の横に防具屋があった。恐らく貸衣装かなんかだろう。 「何これ?どうすればいいの?」 前面のテレビ画面には小さくだが王座のようなものが見える。 多分これから『魔王倒しに行ってきて』と言われるところなんだろう。だが、画面は一向に展開を見せない。 俺たちが立ち往生していると、唐突に黒い杖を持った長門がテレビ画面に向かって歩き出した。 おいおい、ただのテレビ画面になんか興味があるの――――。 「ぬぉ!?」 俺はバランスを崩し、こけそうになった。 これまたなんと、床全体がベルトコンベアになっていた。 床に広がっている石畳のようなものは壁の左右に着いているプロジェクターから映写されているらしい。 戸惑う俺たちに対し、長門だけは黙々とベルトコンベアの上を歩いた。すると、前面のテレビ画面に映された王座が、みるみる近くなる。 なるほど、狭い部屋でも広大な冒険を楽しもうってアイディアか。 ある程度王座の近くにくると、そこに座っている人物、つまり王様が喋り始めた。実際はどこかにスピーカーがあるんだろうが。 『おお、勇者よ、魔王を倒しに言ってくれるのか』 王様は、さっきの係員と同じようなことを長々と喋ったあげく、最後にこう言った。 『それで、勇者は誰じゃ?』 そんくらい誰かに聞いとけよ!つーか今まで誰に喋ってたんだよ!? 俺がそう突っ込もうかやめようかと考えたそのとき、画面の端に『勇者は○ボタンを押してください』というメッセージが表示された。 ボタンというのはこの武器についてるこれでいいんだな?○×△□の4種類あるそのボタンは、嫌でもプレステを連想させられる。 「勇者ってのは代表者のことよね?じゃぁ当然団長の私がなるわ!」 と言うやいなや剣の柄についている○ボタンを押す。 『それでは頼んだぞ!』 おとぼけ王様がこう言うと、再び部屋が暗くなり、また明るくなった。 すると、また俺たちは、何処かの草原に瞬間移動していた。 その直後画面に『ステージ1』と表示される。俺たちの冒険が、今やっと始まったらしい。 しかしこの時俺には解かっていなかった。あんなことが起きるなんて。 ハルヒ関連以外のことでこんなに驚きっぱなしなのは久しぶりだ。人類もここまで来たのか。 画面に映された『ステージ1』の文字が消えた直後、鳥がぐれたようなモンスターが数匹現れ、部屋の中を飛び回っているのだ。 もちろん実際に飛び回っているわけではなく、古泉曰くこれはホログラムなんだそうだ。 何も無い空間に映像を映すことが出来るのか?なんて科学的な疑問を俺は持つことが出来ない。オツムが弱いから。 「何あれ?あれを倒せばいいの?」 「そういうことだろうな」 「じゃぁ行くわよキョン!みんなも援護して!」 そう言うとハルヒはモンスターの一匹をおっかけまわし始めた。 俺が見るところ、こいつらは最初の練習用のモンスターのようなもんだろう。その証拠に、全く攻撃してこない。 「やった!一匹やっつけたわ!」 ハルヒが喜んでいる横で、俺は倒してくださいと言わんばかりにフワフワしてるやつに向かって剣を振ってみた。 物にあたった感覚は全く無いが、そのモンスターは『プシュー』と音を立てながらデジタルっぽく消えた。 結局俺とハルヒが倒したのは一匹ずつで、残りは全て長門が杖から炎を出して倒した。その演出がまたすごかった。 「我らSOS団の勝利よ!」 剣を高く上げ、そう言うハルヒを見るとものすごく恥ずかしい。まだ何もやってないに等しいんだよ。 ハルヒが一人で勝利の余韻に浸っているのも束の間、画面に『STAGE2』と表示された。 どうやらこれは全20ステージの構成らしい。それは『STAGE5』のドラゴンの発言でなんとなく解かった。 そして俺達は今から『STAGE16』を迎えるところなのである。 このゲームも残り5ステージ。敵もだんだん強くなってきていた。今回の相手は、触手属性有りの人にはたまらないバラの化け物だ。 どうでもいいが今回俺の活躍が少なすぎだ。ここはいっちょやったるか。 と俺が意気込んで、化け物に近づいていこうとしたときだ。 「いけません!!」 古泉が叫んだ。おいおい。あいつは強そうだが別に殺されたりするわけじゃ―――。 そう思った俺と化け物の間に、長門が瞬間移動して入ってきた。ん?お前そんなにこのゲームが好きなのか? さっきまでの長門なら杖についたボタンを信じられない早さで押し、炎と氷と雷を同時に出すような芸当をしていたのだが、今回は違った。 「・・・イズミックルカバルチョ」 俺にはそう聞こえた。 長門がそんな感じのことを超早口で呟いた瞬間、化け物が吹き飛んだ。 吹き飛んだと言っても立体映像が消えて、画面の中で小さくなっただけだけどな。 「お怪我はありませんか?」 古泉が聞いてくる。 「お怪我?あるわけ無いだろ。このゲームの弱点の一つはHPとMPという概念が無いことだってさっきお前が言ってたじゃねぇか」 俺がそういうと、古泉は静かに首を振った。 「違います」 そう言うと、古泉は静かに吹き飛ばされた化け物に歩み寄る。歩み寄ると言ってもベルトコンベアが―――。 「動きません。というか床はベルトコンベアではありません。本物ですよ」 お前は何を言ってるんだ? 「・・・どうやら、この部屋が異空間化したようです」 「ちょっとアンタ達、何こそこそ話してんのよ」 いきなり現れたハルヒが俺の顔を覗き込む。お前はまだ遊んでくれてていいんだが。あ、今はいけないのか? 「なんでもありません。あ、次の敵が現れたようですよ」 「あ、本当だ!じゃぁ次は私の番ね!」 そう言ってハルヒは突然現れた巨大蜘蛛に向かっていった。 「長門さん、お願いします」 古泉が小声で長門にそう言うと、長門はこくんと頷き、ハルヒの後を追っていった。 「それで、どういうことだ」 「ハイ、まずこの場所ですが、遊園地のアトラクションなどではありません。魔界です」 「・・・は?」 こいつは今何て言った?魔界? 「勿論本当に魔界があるのかは分かりませんが、涼宮さんのイメージする魔界はこんな感じです」 周りは『ステージ14』から何かドロドロした、紺色が基調の空間と化していた。それも演出かと思っていたのだが。 「ええ、さっきまではただのゲームでしたよ。しかし今は現にこうなっているんです」 「これもハルヒのせいなのか」 「ええ、恐らくさっきまでのステージが涼宮さんの考える魔界のイメージとピッタリ合致したのでしょう。 それ自体は偶然ですが、それを見て涼宮さんが思ったことはなんでしょうか?簡単です。『ここは本当の魔界のようだ』です」 「それだけでここは魔界と化したのか?」 「ええ・・・少々考えたくないことではありますが、何故か涼宮さんの力が強くなっています。一時的なものだとは思いますが」 俺は巨大蜘蛛に向かっていったハルヒと長門を見る。苦戦しているように見えて、よくみれば長門が時間稼ぎをしてくれていることが分かる。 「・・・というか、あの蜘蛛も本物か?」 「ええ、涼宮さんのイメージする魔界の生物です。といっても戦闘能力は長門さんの1000分の1にも及びません」 そうか・・・なら安心なんだが。 「で、何でハルヒの力が強くなったんだ?」 「分かりません。というかたまたまでしょうね。以前から波はあったんです」 それはまた・・・選りによって今日かよ。 「じゃぁどうやったらここから出られるんだ?もうドアは無いだろ?」 「簡単ですよ」 こう言うと古泉は何故か「フッ」と鼻で笑った。ちくしょう、もったいぶるな。 「魔王を倒せば良いんです。要は涼宮さんが『ゲームは終わった』と思えばそれで終わるんです」 魔王か・・・。今は俺がお父さんに助けを求める立場なんだろうか。 「つーかハルヒにバレるだろ。こんなことになっちまっってるんだから」 「いえ、問題ありません。涼宮さんは本当にここを魔界のように感じてますからね。何かの拍子に興ざめしたりしたらここは元に戻るはずです」 「じゃぁハルヒに『ここはゲームだ』って言えば良いんじゃないか?」 「それは問題ありです。それは涼宮さんに『自分達がトンデモ空間に飛ばされている』という事を認識させることになります。それは避けたい所です」 何か微妙に矛盾してるんだが、もう突っ込むのもめんどくさい。 「分かった。で、魔王はいつ出てくるんだ?」 「待っていればそのうち来る筈ですよ。ゲームがそういうシステムであることを、涼宮さんはキチンと認識しているんです」 ますます、矛盾してるような気がするが、もう意地でも突っ込まない。 話を終えるのとほぼ同時、ハルヒと長門がこっちに戻ってきた。 「あー、強かったわあの蜘蛛。死ぬかと思った」 もうハルヒはこれがゲームだというような発言をしなくなっている。ここで俺が『強いって、アレ立体映像じゃん』って言ったらどうなるんだろうか。何か帰れそうな気がしないか? 「ダメですよ。涼宮さんがその言葉を理解するのには5秒ほど要します。同時にこの空間のこともハッキリ認識します」 なんかもうコイツの言ってることが分からない。分からないが信用していた方がいいだろう。古泉の方が専門家だからな。 「涼宮さん。魔王はいったい何時現れるんですかね?」 「ん?きっともう来るわよ!私、何か感じるの」 もしかしてハルヒはただのアホじゃないのか。ゲームに感じるもクソもあるものか。ゲームじゃないけど。 「涼宮さんがそう言うからにはもうすぐ来ます。覚悟しておいて下さい」 ステージ数的には間違ってるんだけどな。魔王の一歩前が蜘蛛ってのもあれだし。もうゲームじゃないけど。 「一般的にイメージされる魔王というのはかなり強い筈ですよ。長門さんより弱いと良いんですけど」 それは恐らく大丈夫だ。俺も小さいころ自分で魔王を倒す妄想をしたことがある。きっとハルヒもそうだろう。 「それは小さな頃の話でしょう。今では星の数ほど居る魔物を束ねている魔王が自分より弱いはずは無いと認識しているはずです。涼宮さんもそうでしょう」 ・・・嫌なところで大人になったと感じてしまうな。 俺がもう呆れかえったというか諦めたというか、何も言わないでいると長門が一方向を指差して言った。 「来た」 その方向を見ると、遠くから巨大な竜が飛んでくるのが見えた。 ああ、ハルヒ。お前は魔王を竜と考える派か。俺は人型派だが。 冷静にも、俺はそんなことを考えていた。 魔城かどっかから飛来して来たっぽいそいつは、俺達の目の前にドスーンと着陸した。3階建ての家ほどの巨体だ。 「よくぞここまで辿り着いたな。我が名は竜王ヴェルザー。私が来たからには貴様らの旅はここで終わりだ」 とまぁ突然そんな感じのベタでしかも何処かショボイセリフを喋りだしたそいつは、これまた突然咆哮した。 今にも襲ってきそうな竜王さんを前にしても、意外と俺は冷静だった。 「魔王じゃなくて竜王って言ってるんだが。問題無いのか?」 「ええ、涼宮さんはこれを最後のボスと判断した筈です。これを倒せば物語が終わるとね」 そのハルヒは、キラキラ目を輝かせながら言う。 「ちょっとキョン!すごく強そうじゃない!絶対倒すわよ!」 ちょっと待て、本気で向かっていったら多分死ぬぞ。 「待ってください涼宮さん。ここは我々におまかせを」 「何で!?私も戦いたいわ!」 「涼宮さんは体力を温存していて下さい。我々が敵の体力を減らしますから、最後の一発を決めてください」 「そ、そう?じゃぁ私はここで待ってるは、危なくなったら交代しましょ」 これがゲームだったら死ぬほどバカらしくて恥ずかしい会話だが、敵は本当にそこに居るのだから仕方無い。 長門と古泉が敵に向かっていく。まったく勇ましい限りだ。 俺は傍らに居るハルヒと朝比奈さんを見る。もし敵が来たら、俺が二人を守らないといけないだろう。 戦いたくてうずうずしてるハルヒは本当のことが分かってないし、あまりにも恐ろしいことが起こっていると認識している朝比奈さんは、 顔面蒼白で足と顔が細かく震えていた。さっきから喋ってないし。 しかし、俺が剣を振り回す必要は無いだろう、と楽観視している部分も大きかった。 古泉はともかく長門より強いものなんかこの世に存在してないと思ってるからな。 「フハハハハ、かかって来るがいい虫ケラども!」 ひょっとしてそれはギャグで言ってるのか? しかしその言葉の真意とは関係なく敵は攻撃を仕掛けてくる。 攻撃といっても足で踏み潰そうとしてきたり、尻尾を振り回すぐらいのもんだ。 長門と古泉にはそれくらい見切るのはわけも無いらしい。 古泉がしきりに赤い弾を敵にぶつけている。敵の体力が2分の一とかになったらビームでも使ってくるかもしれないな。 しかしまぁここもいつかのカマドウマと同じようにあっけなく終わりそうだ。 「そろそろいいわね!敵も弱ってきてるわ!私がとどめを!」 ハルヒが走って行こうとするのを慌てて俺が止める。 「ちょっと!何で止めるのよ!?」 「そ、それはだな・・・」 「これはただのゲームでしょ!」 ・・・あれ?言っちまったよ? 「ま、まぁそうなんだが・・・」 「アレ?これ、ゲーム・・・よね?何か妙にリアル・・・」 えー、これはもしかしてまずいのか古泉? 古泉と長門はまだ戦いの際中。フォローはしてくれまい。 えーと、何て言おうか・・・。 「そうだな・・・」 スマン長門。後は頼む。 「これはだな、ハルヒ。お前の見ている夢なんだ」 「・・・は?何言ってんの?」 当然の反応だ。 「お前は今、眠っている。夢を見ているんだよ」 ハルヒに顔には、意味分かんないと言う表情がありありと表れている。 「まぁとにかくそう言うことだ。ここがどんなに非現実的でも仕方無いことなんだ」 こんなことを言ってる自分に自己嫌悪する。というか恥ずかしくてたまらない。 「キョン?あんた頭がおかしくなったの?」 「ここい居る俺はお前の想像であって、おかしいとかおかしく無いとかまずそんな概念が無いんだ」 「ちょっとアンタ、熱あるんじゃないの?」 「ああ、熱も無い。零度に近い」 「ていうか夢なら別にあれにやられちゃってもいいじゃない!?」 ごもっとも。 「そ、それはだな・・・」 俺が反応に困っていたとき、横から救いの手が差し伸べられた。 「もう何も考える必要は無い。貴方は起床する」 「は?有希までなに言って・・・の・・・」 いつの間にか俺の隣に来ていた長門が、ハルヒに手をかざした瞬間、ハルヒの体は崩れ落ちた。 「ハルヒ!」 俺が倒れそうになるハルヒの体を受け止める。 「終わりましたよ」 これまたいつの間にか隣にいた古泉が言う。 「というか長門さん、涼宮さんに手を出してよかったんですか?眠らせることが出来るならそれが一番早かったんですけど」 「今回は緊急事態」 長門がそう言うと、古泉はちゃんと理解したようだ。俺は良く分からない。 「さて、帰りましょう」 「は?」 俺が周りを見渡すと、そこは元に居た前面テレビ画面の部屋だった。 「・・・訳が分からない」 俺は、声に出して呟いた。 「う、ううん・・・」 ハルヒが気が付いたのは、それから30分程あとのことだ。 「お、気が付いたか?」 「キョ、キョン・・・?ここはどこ?」 「園内の医務室だ」 ここから俺は、先ほど古泉と打ち合わせた通りのセリフを喋る。 「お前があのゲームの際中にいきなり倒れてな。大変だったんだぞ?ここまで運んできたり」 実際に俺が背負って運んできたんだけどな。 「あ!ゲームは!?どうなったの!?」 ハルヒがベッドから飛び起きる。ベッドが少し軋んだ。 「ゲームは?ってお前が倒れてもやってりゃ良かったのか?途中で止めてお前を連れてきたんだ」 「あー悔しい!何で私倒れちゃったりしたのかしら?」 「軽い貧血だと言っていました。動きすぎでしょう」 古泉が割って入る。ちなみにこれも台本通り。 「じゃぁキョン!今から再戦よ!さっさと動きなさい!」 俺は軽く肩をすくめてから言う。 「3時間待ちだ」 結局ハルヒも3時間並んでまでまたやろうとは考えなかったらしい。 俺達は適当にジェットコースターやらなんやらに乗って帰った。 家に帰った俺は、今回の疲れを全てベッドにぶつけた。 今回も疲れ果てた。もうあいつらに付き合うのはこりごりだ。 しかしそういうわけにもいかないんだろうなぁ。 俺はもう首を突っ込んで拘束までされているんだから。 オワリ
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1379.html
325 :ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b [sage] :2009/10/09(金) 22 24 28 ID Fq4q3HCv 背後にサクッという草を踏みしめた音が鳴った。 驚き、慌てて振り向く。 後ろは、香草さんが立っているだけだった。 「びっくりした……目が覚めてたんだね」 「その女、誰よ」 あれえ? 相手は香草さんだし、この子はただ怪我の手当てをしただけだ。別に何もやましいことも、怖いことも無い。 それなのに何故だろう、冷や汗が止まらないのは。 「え、ええっと、幽霊の正体」 「どういうこと?」 急速に香草さんから放たれていた殺気が弱まるのを感じた。それに、表情に少し困惑の色が混じっている。やっぱり幽霊は怖いのか。 「彼女の超能力が原因だったんだよ。すすり泣きの声も彼女のものだったんだ。何があったのかは彼女に直接聞いてみないとよく分からないけど、多分怪我が原因で気が立ってたんじゃないかな」 僕はそういいつつ、先ほど手当てした彼女の尻尾を指し示す。 「酷い……」 香草さんも思わず声を漏らしたようだ。確かに、随分と痛々しい傷だ。 「……やどり」 突然、僕のものでも、香草さんのものでも、ポポのものでもない声が聞こえてきた。 僕と香草さんは揃ってビクリと跳ねる。 その声の主は、どうやらヤドンの彼女のものらしかった。 常識的に考えればそれ以外の選択肢はないんだけど、幽霊という先入観があったせいだ。 「……私……の名前……巻貝……やどり」 彼女――やどりさんは再び口を開いてそう言った。 随分とゆっくりとした話し方だ。消耗がそんなに激しいのか、それとも素でこれなのか。 「やどりさん? 僕は若葉ゴールド。こっちは香草チコさんで、あっちがポポ。尻尾は大丈夫?」 どう見ても大丈夫ではないけど、他にかける言葉を思いつかない。 「……大……丈夫」 彼女はそう言いながら、ゆっくりと起き上がる。全体的に行動にスローモーションがかかったような人だ。 僕に襲い掛かるときはあんなに素早かったのに。 体を起こした彼女は、相変わらず呆けたような顔で、僕をじっと眺める。 「……あり……が……とう」 「え? ……ああうんっ。ごめんね、痛くなかった?」 「……痛く……無かった。……あなた……いい人」 「い、いやいい人だなんて……」 「それで、どうしてこんなことになったのか、教えてくれる?」 僕とやどりさんの会話に香草さんが割り込んできた。 「……そう……襲われた」 「襲われたって一体誰に?」 「……黒い服を着た……人たち」 やはりそうか。そもそもこんな行いを働く奴らなんて限られてくる。黒い服を着た人たちとはロケット団のことだろう。 しかし、それにしては奇妙な話だ。 「でも、尻尾以外に怪我らしい怪我してないよね」 彼女はざっと見て、切断された尻尾を除いたらかすり傷一つ無い。 他に傷が無いのに、尻尾のように傷を負いにくい部位だけ酷い怪我をしているというのは違和感がある。 「……ぼーっとしていたら……尻尾が切られていた……」 ……ギャグ? ヤドンは皆かなり鈍いらしいけど、尻尾を切られてから気づくなんて、いくらなんでも鈍すぎる。 「その人たちは……倒したけど……怖くなって……逃げた。水の中で……傷が治るのを待っていた……」 水中で傷が治るのを待つとかどんだけ常識がないんだこの子は! 水中では血液は凝固しにくく、当然、血も止まりにくい。完全な自殺行為だ。 なんというか、色々と危うい子だな。 「で……も……ゴールド……安心できる」 彼女はそう言って、のそのそと僕に寄り添うように座りなおした。 こんな酷い目に会ったのに人間不信にならなかったのはなによりだけど、怪我の手当てをされたからって見ず知らずの人間をこんなにすぐに信じるのも問題だと思う。 「ゴールド、こんなことしてる場合じゃないでしょ!」 唐突に、香草さんの蔦に縛られ、立たされる。 326 :ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b [sage] :2009/10/09(金) 22 24 50 ID Fq4q3HCv 「先に進まないと!」 香草さんの言うことは尤もだ。でも蔦で縛り上げて立たせるのは勘弁して欲しい。 「でも、やどりさんをこのまま放っては置けないよ」 僕は蔦から抜け出しながら反論する。 一応の処置はしたとはいえ、このまま彼女と別れるのは危険すぎる。檜皮村に戻るか、せめて一日様子を見るくらいはしたい。 「戻るですって? 何言ってるのよ!」 当然、香草さんは認めてくれない。 「ポポはゴールドの言うとおりにするですよー」 ありがとうポポ。でも僕の言うとおりには状況は動いてくれなさそうだ。 「そうだ! じゃあ古賀根市まで一緒に行くってのはどうかな? そうすれば僕たちもタイムロスにはならないし、やどりさんの心配もない。あ、もちろんやどりさんがよければ、だけど」 「……いいの?」 「いいよ」 香草さんが何か言おうとしていたが、僕は強引にさえぎった。 彼女が急ぐ気持ちも分かるけど、ここでやどりさんを放置して進むことなんて出来ない。 「今すぐ動くってわけにもいかないよね。ちょっと休憩しようか」 僕がそういうと、ポポはそそくさと僕のすぐ隣に座った。 チラと香草さんのほうを見ると、彼女は思いっきり僕を睨んでいた。 参ったな。また嫌われちゃったよ。 溜息をつかないようにするのもなれてきた。無意識で溜息を抑制する。 しかし心の中では盛大な溜息をつきながら、食事の準備を始めた。 食事を終え、荷物を片付けながらやどりさんに声をかける。 「やどりさん、歩けそう?」 「……うん。……血が止まったら……楽になった」 「それはよかった。じゃあ進もうか。ごめんね、無理させちゃって」 「無理なんて……していない。それに……謝るのは……私のほう。迷惑かけて……ごめんなさい」 「何言ってるのさ。困ったときはお互い様だよ」 そう言って僕は立ち上がり、彼女に手を差し伸べる。 着ぐるみのせいで、一人で立ち上がるのは大変だと判断したからだ。 今更だけど、この着ぐるみ、邪魔じゃないのかな。 ホントに変わった人だ。 隣では、座ったポポが翼をパタパタと動かしていた。これは私も手を引いてほしいというアピールだろうか。 僕がポポにも手を差し出すと、ポポはぱあっと頬を緩ませた。 こういうことをするから、ポポの僕に対するスキンシップが過剰になっていくんだろうなあ。 頭ではそう分かっていても、ポポが笑顔だと僕も嬉しくなってしまう。 再び、僕たちは歩き出した。 やどりさんの体調が心配だったけど、僕の心配に反して、彼女の足取りはしっかりしたものだった。 むしろ僕たちの方がぎこちないくらいだ。 彼女はこの森によく来るようだったから、当然このような悪い足場にも慣れているのだろう。 しかし、どれだけ歩いても同じような景色ばかりだ。迷いそうになる。 やどりさんに尋ねても、分からないという返事が返ってくるのみだ。 彼女は古賀根市に行ったことは一度も無いそうだ。 古賀根市は方円地方最大の都市だ。当然人も多く、皆キビキビとしている。 彼女のようなのんびりした人が、あのようなあくせくした街に行っても、色々危ないだろう。 そういう意味で、彼女が古賀根市に行ったことがないと聞いたとき、少し安心してしまった。 尤も、僕のせいで始めて行く事になってしまうのだけど。 歩いている間、やどりさんのことを色々と聞いた。 彼女は十六歳、つまり僕の一つ上で、檜皮村の一軒家に一人で住んでいるそうだ。 旅に出た経験は無し。去年の旅の参加は、家の維持を理由に辞退させてもらったそうだ。 両親を事故で亡くし、そのとき彼女も大怪我をしたとのこと。本当に、怪我の多い人だ。 余計なことを聞いてしまって、申し訳ない気分になった。 時々寂しく思うこともあるけど、気ままにやっているから気にしなくていい、と彼女はフォローしてくれたものの。 彼女は話すのがとても遅いため、これだけの事を聞くのに大分時間がかかってしまった。 しかし時間がかかった割には、まだ森を抜けることが出来ていない。 それどころか、この道は前にも通ったような気がする。 コンパスを見ても、どうも方位が合わない。 もしかして、幽霊騒動のごたごたで正しい道を外れてしまったのか? この疑問はすぐに確信へと変わった。 少し前から木に印をつけて歩いていたのだけど、印をつけた木と再会したからだ。 327 :ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b [sage] :2009/10/09(金) 22 25 56 ID Fq4q3HCv ここでようやく話は冒頭へと戻る。 間違いない。僕達は遭難している。 僕は力の無い笑みを浮かべ、皆にその旨を告げた。 ポポは不安げな表情を浮かべ、香草さんはまるでゴミを見るような目、やどりさんは相変わらずぼんやりとした表情と、反応は三者三様である。 「で、でも大丈夫だよ! 食料も水もある!」 僕は慌てて弁明したが、香草さんは「だから?」と言わんばかりだ。 水と食料はあって当然のもの。香草さんの反応も尤もだ。 まさか森で遭難するなんて。まったく自分が情けない。 「とりあえず、道からは外れるけど、ここをまっすぐ進もうと思うんだ」 僕はそういいながら、目の前の木々の間を指差す。 この道に沿って進んでいても、グルグルと回るだけだ。 ポケギアのGPSは鬱蒼と生い茂る木々のせいで役に立たない。 しかし幸いにも僕はコンパスを持っていた。 ならば多少のリスクはあるが、コンパスの方位に従って、この道を進むべきだと考えた。 しかしそうなると心配なのはやどりさんの体力だ。 どれだけ歩けば森を抜けるか分からない上に、もう随分無駄に歩かせてしまっている。 心なしか顔色も悪くなっている。 そこで僕は提案した。 「やどりさんはここに残っていて。それと誰かもう一人も。あとの一人は僕と一緒に来て欲しい。ここにタコ糸があるから、残る人はこれの一端を握っていて欲しいんだ。そうすれば僕はここに戻ってこれる」 まさかタコ糸がなくなるくらい歩いても、道が一本も見つからないということは無いだろう。 僕はリュックから取り出したタコ糸を眺めながらそう思う。 三人とも、僕の提案に異論は無いようだ。 問題はどちらがついてくるかだけど…… 「ポポが行くですー!」 「……私は残るわ」 懸念に反して、あっさりと決まった。香草さんがおとなしく残ると言うなんて珍しい。 そういえば、かなり幽霊を怖がっていたからな。さっきの幽霊の正体はやどりさんだったけど、他に何か無いとも限らない雰囲気だ。 香草さんの表情が暗いのはそういうことだったのか。 「じゃあこれよろしく。何かあったら強く引っ張って。出来るだけ早く戻ってくるから」 僕が差し出したタコ糸の一端を、香草さんは無言で受け取る。 「何か無くても、二時間もしたら戻ってくるよ。じゃ、行ってきます」 「……行って……らっしゃい」 やどりさんはゆっくりと手を振ってくれたが、香草さんは無言の上に無反応だ。 そんな様子を奇妙に思いながらも、僕とポポは出発した。 道の無い森の中。 厚く張った苔に足をとられながら、ゆっくりと歩いていく。 「――で、それで……」 ポポの元気な声が湿った森に木霊する。 ポポはすこぶるご機嫌だ。 香草さんがいないからかな。 だとしたら、やっぱり問題だよな…… そう思いつつ、二人の関係改善は内心諦めている。 ポポは臆病すぎるし、香草さんは頑固すぎる。 これじゃあ話し合いになるはずが無い。 この森のように、僕の気分はどんよりと重い。 三十分ほど歩いた頃だろうか、僕たちは大きな段差に突き当たった。 高低差が大きく、木々のためにポポも飛べないから確かめようが無いけど、おそらく、ここが森の終わりだ。 地図によると、段差沿い左に進んでいけば、正式な出口に突き当たることだろう。 「よし、引き返そうか」 地図から顔を上げると、ポポに声をかけた。 今頃、やどりさんと香草さんはどうしているだろうか。 328 :ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b [sage] :2009/10/09(金) 22 27 17 ID Fq4q3HCv ゴールドは私を置いていってしまった。 私と一緒にいたい。二人で共に進みたい。 そう言って欲しかったのに。 私の中でやりきれない思いが溜まっていく。 どうしてこんなことになってしまったんだろう。 少し、回顧する。 私は、孤独だった。 同じ種族で集まって作られた里には同年代の子供は無く、街で友達を作るしかなかった。 しかし、里の期待を一身に背負わされたせいで選民意識が肥大した私に、友達など出来るはずもなかった。 当然だ。最初から自分と自分の仲間以外のすべてを見下してかかっている人間と、誰が友達になってくれるというのだ。 でも、ゴールドは、私をパートナーに選んでくれた。 誰とも話せなくて、小さくなっていた私を。 率先して選んでくれたわけではないけど、すでに悪印象を持たれていたであろうに、それでも、私を選んでくれたのだ。 彼は同じ種族以外で、私を拒絶しないでくれた、初めての、唯一の人間だったのだ。 始めは、ゴールドのことも、よく知りもしないのに見下していた。 どうせ私の種族以外の人間なんて、皆価値のないものだと思っていた。 でも、どうしてだろう。 彼と話していると、それだけで気持ちが高ぶった。 彼といると、それだけで心が安らいだ。 いつからか、彼ともっと一緒にいたい、ずっと一緒にいたいと思うようになっていた。 今まで生きてきて、感じたことの無い想い。 私はこの想いを、そして何よりもゴールドを、決して失いたくは無い。 でも、私は特別じゃなかった。その彼の優しさは、誰にでも向けられるものだった。 旅に出てすぐに、悪夢が訪れた。 ゴールドは彼を襲った忌々しいあの鳥をパートナーにした。 あの卑しい追いはぎを。 彼の荷物を奪おうとしたくせに。彼を傷つけようとしたくせに。 それなのに一体どの面下げて彼の前に立てるのだ。どうして彼に触れることが出来るのだ。あの低脳極まりない鳥が。 私のほうが強いのに、私のほうが賢いのに、私のほうが役に立っているのに。 それでも、彼は私だけを見てくれない。いちいちあの鳥のことを気にかける。 ふと、夢想したことがある。 もしあの鳥と出会わなければ、今頃どうなっていたかを。 ゴールドが私だけを見てくれる。私だけに話しかけてくれる。敵を倒せば、私だけを褒めてくれる。 そう、きっとそこには、素晴らしい日々があったはずなのだ。 だけど、現実は。 私はついさっき会ったばかりの女性と一緒に、ゴールドの帰りを暗い森の中で待っている。 彼はあの鳥にいちいち気を割く。いや、むしろあの鳥のほうを優先している節すらある。 それを思うと、胸が締め付けられるように痛んだ。 彼は、少し優しすぎるのだ。 目の前の女を見る。 止血の知識すらない、愚鈍な馬鹿だ。しかも、コイツもゴールドを傷つけようとした。 確かに怪我については同情した。しかし、それがゴールドと共にいていい理由にはならない。 なぜコイツがここにいる。なぜゴールドと共にいれる。 そう考えて、気づいた。 コイツはこのままゴールドに寄生しはしないだろうか。 想像して、身震いがした。 そんなことになったら、ゴールドと話せる時間が、ただでさえ皆無に等しいゴールドと二人っきりの時間がますますなくなってしまうのではないだろうか。 この女を排除しないと。 脅して逃げさせる? ダメ、もしこの女が戻ってきてゴールドに告げ口されたら…… ゴールドがそれを知ってどうするかなんて考えたくも無い。 口を完全に封じ、かつ、いなくさせるには―― 答えは単純だ。 329 :ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b [sage] :2009/10/09(金) 22 28 23 ID Fq4q3HCv 私は、無音で両腕の蔦を伸ばす。 ここはあまり人が立ち入らない深い森だ。モノの隠蔽は容易い。 私は彼女の背後から、蔦を少しずつ、音も無くスルスルと忍び寄らせていく。 あと少し。もう少しで彼女の首にかかる。彼女を―― そのとき、手が突然震えた。 ゴールドがタコ糸を引いたらしい。 私は慌てて両手の蔦を引っ込めた。 私は、一体何をしようとしていたの? 正気に返った頭で、先ほどまでの自分の行為を恐ろしく思った。 ゴールドが止めてくれなければ、私は今頃…… 狂いそうになる自分を抑えるように、両腕で自分を強く抱いた。 「お待たせ、道、見つかったよ」 合図として糸を強く数回引いた数十分後。 僕とポポはようやく香草さんとやどりさんが待つ場所に帰ってこれた。 ポポが中々戻りたがらないせいで結構な時間を食ってしまったけど。 「ポポ……ゴールドと二人がいいです……」 大きな瞳一杯に涙を溜めて、上目遣いでこれを言われたときには、危うく正気を奪われそうになった。 しかしそうは言われても、戻らないわけには行かない。 それに、早くしないと日が暮れる。 ただでさえ暗い森が、本当の真っ暗闇になったら、行動するどころか、留まることさえ恐怖だ。 ポポの悲しそうな顔を見るのは心が痛んだが、ポポの願いを聞き届けるわけには行かない。 「遅かったじゃない」 香草さんは俯きながら言った。普段なら怒っているのかと身構えるところだけど、なぜだろう、今の彼女はとても危うげで儚げに見えた。 「ごめん。地面がよくなくてさ。大目に見てよ」 努めて軽い調子で返したが、返事は無い。 困って頬を掻いていると、やどりさんが立ち上がってこちらに来た。 体調を確認しようと思ってたけど、自発的に立って歩けるくらいなら心配はなさそうだ。 やどりさんは止まらず、そのまま僕に寄り添うように抱きついた。 「な、何を……」 僕の言葉は彼女の表情を見たところで止まった。 幸福感に包まれた、穏やかな表情。 彼女も、不安だったのだろうか。 とはいえ、いつまでも抱きついているわけにもいかない。ほんの数秒抱きつかれただけで、ポポが「ポポも!」と飛びついてくることだろう。 「やどりさん、怪我は大丈夫?」 僕は尻尾の様子を見ることを言い訳に彼女を引き剥がし、後ろを向かせた。 包帯には血がにじんでもいない。念力を使っているのか分からないけど、血は完全に止まっているようだ。 「……問題……ない」 そう言って再び向き直って僕に抱きつこうとするやどりさんをかわし、三人に向かって呼びかける。 「出口までいける目処が立った。出発しようか」 ザクザクと苔を踏みつけながら森の中を行く。 ポポがしきりに僕に話しかけてきているので会話は絶えず、雰囲気は明るい……はずなのだが。 最後尾を俯き加減でついてくる香草さんに目を向ける。 時々、香草さんはこのように表情が窺い知れないことがある。 本当に彼女のことはよく分からない。しかし心配なのは心配だ。 これも、彼女にとっては余計なお世話なのだろうか。 僕はすぐに先ほど来た森の行き止まりに突き当たった。そこで進路を変える。 やどりさんもまだ元気そうだし、このまま急いで森を抜けてしまおう。 日が暮れると、こんなところには恐ろしくていられない。 330 :ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b [sage] :2009/10/09(金) 22 28 56 ID Fq4q3HCv 「あっ!」 進路を変えてから数分もしないうちに、ポポが声を上げた。 「どうしたの?」 「建物が見えたです!」 僕の目にはまだ何も見えないが、ポポは僕よりはるかに目がいい。 少し歩を早めると、すぐに僕の目にも建物が映った。 予想通り、そこは通行所だった。 皆、靴や足が泥だらけだったけど、やどりさんの念力で綺麗に掃ってもらった。念力にこんな使い方も出来るなんて。まるで見えない手のようだ。そういえば、沼の中にいたにもかかわらずやどりさんがそんなに汚れていなかったのはこれのためか。 通行所で簡単な手続きを終え、僕たちは古賀根市へ入った。 と言っても、しばらくはただの小道。大都市の片鱗もない。 しばらく歩くと、広い囲われた土地と、それに隣接した一軒の家が見えた。 「大きな家ですね」 ポポが何の気なしに、感想を述べる。 家……というより、構造的には学校のほうが近い。しかし僕が通ったような普通の学校とは似ても似つかない。ここのほうがはるかに豪華だ。 「確かアレは育て屋じゃなかったっけな」 「育て屋……です?」 耳慣れない単語に、疑問の声を上げる。 「うん。珍しい施設でね、しばらく子供を預ければ、相応の代金と時間の変わりに、入所した子供を一流の紳士淑女に教育するって施設なんだ。方円地方にはこの一箇所しかないんだよ」 僕の言葉を聞いて、ポポがピキッと固まった。 「その教育手腕には定評があるらしくてね。どんなことをやってるのか、トレーナーとしてはぜひ一度見てみたいなー……ん? ポポどうしたの? 顔色が真っ青だよ」 「……あ……うあ……」 「大丈夫? 体調でも悪いの? ちょっとここで休ませて貰おうか?」 「だ、だだだ大丈夫です! ポポ、元気です!」 「ホントに?」 「本当です!」 「ならいいけど、無理はしないでね」 「無理してないです!」 ポポの様子が急変したことを疑問に思いながらも、僕たちは先に進む。 古賀根市の中心部にある高層ビルが見える距離までくると、辺りに家々も増えてきた。 ホケモンセンターは中心部にあるから、あそまで進まなければならない。 歩くこと数時間、日が暮れる頃。ようやく僕たちは街の中心部に到達した。 「うわー! すごいです!」 ポポがビルを見上げ、興奮した声を上げている。 僕も初めてきたときにはかなり驚いたものだ。 若葉町は四階建て以上の建物が珍しいような辺鄙な田舎町だ。 だから初めてこんなビルを見たときには、それだけでどきどきしたものだった。 やどりさんは相変わらずぼんやりとした表情でビルを眺めている。呆気にとられているのか、それともただぼーっとしているだけなのか。彼女の表情から思考を伺うことは難しい。 一方香草さんは上を向くことすらせず、地面を見ていた。 僕は見て見ぬ振りをした。 ポケモンセンターにつくなり、やどりさんをつれてすぐに病院へと向かう。 見た目は痛々しいが、やはりヤドンの尻尾は元々再生可能なもので、今回も再生は問題なく行われるだろう、との診断結果だった。 やはり、見た目ほど重い怪我ではないらしい。 森の中からここまで僕らのペースにあわせて歩いてこれたので、そうなのはうすうす分かってはいたのだけれど。 倒れたのは一時的なショックだったらしい。 処置も消毒して包帯を巻くだけという簡単なものだった。縫合等を行ってしまうとむしろ再生に支障をきたすのだそうだ。 損失部位はかなり大きいのに、再生可能だというヤドンの神秘に感心しながら、僕は女医さんに礼をいい、診察室から出た。 待合室にはポポと香草さんが待っていた。 ポポは間違いなくやどりさんが心配だったのではなく、ただ僕を待っていただけだろう。 待合室で騒がしくするのも迷惑だし、僕たちは速やかにあてがわれた部屋に移動した。 自然と、というか色んな意思が働いて、僕が一人でベッドに腰掛け、香草さん、ポポ、やどりさんの三人が向かいのベッドに腰掛ける形になった。 「やどりさん、大事に至らなくてよかったね」 「……うん」 まずは無難な第一声。本題を切り出す前の布石だ。 331 :ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b [sage] :2009/10/09(金) 22 29 17 ID Fq4q3HCv きっと香草さんやポポはパートナーでも無い人を、診察を終えても別れず、ここまでつれてきたことを疑問に思っていることだろう。 僕は少し息を吸うと、一息にいった。 「それで、もしよかったら、やどりさんも一緒に旅をする仲間になって欲しいんだ」 案の定、香草さんとポポの表情が驚きに変わった。一番驚くべきであるやどりさんは相変わらずの、どこか遠くを見ているような表情だ。 「な、何を言っているのよ!」 正気? と言わんばかりに、香草さんは僕に食って掛かる。 そのまま立ち上がり、僕ににじり寄ろうとした香草さんの動きを、ポポが翼で制した。 「契約解除する奴には関係ないことですよ。黙ってろです」 驚いた。 その冷たい視線ときつい言葉は、ほんの数十分前まで無邪気に微笑み、切れ間なく僕に話しかけ、笑いかけてきたポポと同一人物とは思えなかった。 まさかポポのこんな態度を見ることになろうとは。 この話を切り出すにあたって、様々なケースを予測したけども、これは予想の範疇外だった。 また、恐怖と同時にまだ契約解除の話は反故にはなっていないことも思いださせられた。 以前のポポに、こんな表情が出来ただろうか。これも成長の一つなんだろうか。それとも、最初からポポは……いや、これは今はおいておこう。 それよりも今すべきことは、至急香草さんと話し合うことだ。 「ごめん、ちょっと香草さんと二人きりで話がしたい。ポポ、やどりさん、申し訳ないんだけど、しばらく席を外してくれないかな。……こんな話、外でするわけにもいかないし」 不安だった。「アンタと話すことなんて何も無いわよ。さあ、役所に行きましょ。そして契約解除よ」と言われてしまえば、僕になす術はない。 一瞬だけ目線を下げて、現在時刻を確認した。役所が閉まるまではまだ三十分以上あった。急げば書類を取ってくるくらいのことは十分に出来る時間だ。 目線を正面に戻す。ポポの翼の影から出てきた香草さんの目は、ひたすらに無機質だった。まさに心ここにあらずといった様子だ。 これもまた予想外だ。いや、思索を巡らしていると考えれば、この目の説明もつくか? 一瞬の間の後、香草さんが口を開いた。 「いいわ。話し合いましょう。私達の……これからについて」 そう言うと、彼女は神妙な面持ちで腰を下ろした。 ポポはその様子を見、再び僕に向き直った。僕の真意を測るかのように。 僕は、まっすぐポポを見つめ返す。 ポポの目に、一瞬。落胆の色が混ざった。 しかし、ポポはすごすごといった様子でおとなしく部屋から出た。やどりさんも、相変わらずぼんやりとした様子でポポの後に続く。 そういえば、やどりさんからしてみれば、部外者の自分の目の前でいきなり意味の分からぬ険悪な光景が発生したという、ただただ唖然とするしかない状況なんだよなあ。すごく申し訳ない。 ふと、思考の端でそんなことを思った。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2459.html
653 名前: ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/10(土) 23 55 17 ID OxvbpP8c [3/7] どうするか。 やっぱり警察に相談したほうがいいんじゃないか? まっさきにそんな思考が浮かぶ。 如何に警察内部に内通者がいようとも、たまたま僕の話を聞いてくれる警察官がそうとは限らない。 しかしすぐにそれを否定する思考が頭を巡った。 これだけの大計画だ、かなり偉い立場の人間にロケット団の協力者がいないわけが無い。いくら下の方に僕の話を聞いてくれる警官がいても、上に行くところで揉み消されたら終わりだ。 それに、そんなことになったら、報告だけじゃなく、僕達も消そうとしてくるだろう。つまり警察に相談するのは悪戯に僕達を危険にさらすだけだ。 でも、こんな大事を僕達だけで解決することなんて出来るのか? 僕は事態の大きさに相当怖気づいていた。 少なくとも、普段の僕なら、こういう事態で、警察の力を借りようだなんて思わない。 まして、警察内部に内通者がいると分かってるっていうのに。 「ゴールド、どうしたの、難しい顔して」 気づかなかったけど、香草さんは涼しげな顔をしている。 「どうしたのって、どうして君はそんなに平気そうでいられるんだ」 654 名前: ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/10(土) 23 58 08 ID OxvbpP8c [4/7] 「だって、ことに及ぶ前に全部倒せばいいだけでしょ。簡単じゃない」 簡単じゃないって……それはそうだけど、言ってくれる。 「見てよここ」 僕はそう言って送られてきた内部資料の一文を指差す。 「ロケット団はこの作戦に実働部隊だけでも八百以上の人員を投入するつもりだって。八百人だよ!?」 対するこちらの実働部隊は資料によれば十五人にも満たない。戦力差五十倍以上の相手。絶望的な数字だ。はじめから勝負にならない。 唯一の救いは、ロケット団員は基本的に練度が低く、個々人の戦力はたいしたこと無いということだ。 それにしたって、戦力差は絶大に思える。 「大丈夫よ。ゴールドがいれば……私は無敵だから」 そういって彼女は穏やかに微笑む。僕にはどうにもその顔が本物の殺し合いを間近に控えた者の笑みには思えなかった。 僕には何がどう大丈夫なのかさっぱり分からない。 しかし彼女の言うことにだって理はある。 どの道やるしかないんだ。絶望なんてするだけ無駄だったんだ。 「そうだね、なんとかするしかない」 僕は自分に言い聞かせるようにそう呟くと、再び計画書に目を落とす。 計画書によると、やはり目立つのは避けたいらしく、建物の内部から制圧していく作戦らしい。 これは僕らにとっては好都合だ。 八百人の人間が陸から空から一斉にラジオ塔を攻め落とそうとすれば、僕達にそれを防ぐ術はないけど、内部から制圧していくだけなら、建物の構造上一度に動ける人数も行動の内容も大きな制限を受ける。 香草さんもやどりさんも仲間の傷つける心配なく全体攻撃を行えるからこの場合こちらに利がある。 地の利を生かせば勝機は十分にあるかもしれない。 いや、まて、戦わなくても目立てばそれで十分騒ぎになるんじゃないか? そうすればすぐに多くの人が集まってきて敵の作戦は崩壊す……いや、駄目だ。 もしその間に電波を発信する設備を抑えられ、あの電波を流されたら、打つ手は無くなる。 やっぱり直接戦って止めるしかないのか。 いや、それでも正面から戦うことは避けられるはずだ。 もし彼らが密集しているのなら、そこに怪しい光曳光弾を一発打ち込めばそれだけで彼らを撹乱できる。 そういう風に、数が多いのならば、それと正面から向き合うのではなく、数が状況を不利にするような作戦で挑むべきだ。 僕の隣にいる子はどうもそういうことを理解していないみたいだけど。 見取り図と味方の戦力、ロケット団の侵入経路から、相手を迎え撃つのに効率的と思われる箇所を模索する。 基本、上下階を繋いでいるのは階段とエレベーター。 ロケット団は主力部隊を階段で送り込み、エレベーターを挟撃のために使用するみたいだから、適当なところでエレベーターは落としてしまおう。 空洞と化したその跡を上ってこようとするならば、放水なり何なりで全部叩き落してしまえばいい。 攻撃の性質上、階段も上を押さえてしまえば同じ要領で一方的に攻撃し続けるだけで勝てる気がする。 発信施設を押さえる意味でも、如何にロケット団に先んじて上の階を占拠するかの勝負になりそうだ。 ダクトの類はどうも人が移動できるようなものじゃなさそうだし、となるとラジオ塔の中を移動するには階段かエレベーターを使うしかない。 しかし階段には警備員がいるし、エレベーターは一般解放エリアと一般立ち入り禁止エリアで別々に分離している。 そして立ち入り禁止エリアに入るためには警備員に通してもらう必要がある。 つまりどの道警備員を何とかしなくてはならない。 どうしようか。ここは一つ、眠り粉か何かで眠っていてもらおうかな。 ロケット団の手先ならこれくらいは自業自得だと思って諦めてもらうし、仮にそうじゃないとしても、ただ眠らされるだけで済むんだからロケット団にやられるのに比べればはるかにマシだろう。 仮に眠り対策があるなら、やどりさんに気絶させてもらおう。 彼女にかかれば瞼一つ動かせず、声すら出せなくすることなど簡単だということを、僕は身をもって知っている。 とりあえずここを抜けたら、人が騒ぐようであればやどりさんと香草さんに昏倒させてもらい、特に何の反応もないようだったらそのまま社長室あたりを目指させてもらおう。 社長がロケット団とグルでないことは確実だ。 なぜなら、社長がグルならば最初からラジオ塔を乗っ取る意味がない。 同様の理由で電波の送信を行っている立場の人間も白だろう。 しかしここの人間すら抱き込まれていないとなると、ラジオ塔側にはほとんど内通者はいないのかもしれない。 と、ここまで考えたところで、香草さんが僕の首筋にぬるりと手を這わせた。 突然のことに、僕は思わず跳ね上がる。 655 名前:ぽけもん 黒 26話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/10(土) 23 58 34 ID OxvbpP8c [5/7] 「ご、ごめん、驚かせちゃった?」 「う、うん、びっくりした。どうしたの?」 「どうもしないけど……ゴールド、全然私を見てくれないから……」 なるほど、僕がずっと思案顔で資料とにらめっこだったのが気に食わなかったらしい。 「ごめんねチコさん。でも、これはさすがにちゃんと考えないといけないからさ」 「もう、何も考える必要なんか無いのに」 そう言って彼女はすねた顔をする。 「万が一に備えるのも、作戦って奴だよ。もしすべて上手くいっても、チコさんが大怪我なんかしたら何の意味もないからね」 「わ、私は別に……」 彼女は顔を赤くしてなにやらブツブツ呟いている。 情けない話だけど、香草さんに何かあったとき、僕は守る自信がない。 香草さんクラスの人相手じゃ僕は避けることすらままならない。 だから、そんな事態にならないように、逃走も含めて、事前にしっかり策をめぐらせておかねば。 最悪、電波の発振装置かアンテナを壊すことも視野に入れなければならない。 不謹慎な話だけど、作戦計画を考えていると、少し楽しかった。 まるで昔の、他愛の無い子供の探検ごっこを思い出すのだ。 この日と翌日をかけて計画をまとめ終え、シルバーに送信した直後、示し合わせたようにポケギアが震えた。 発信者は不明。しかし相手は言うまでもない。 「俺だ」 電話口の向こうから、そんなぶっきらぼうな声が聞こえてくる。 「で?」 「作戦決行日前に集会があることは知っているな?」 送られてきた資料の中にそんなものもあったな。 「うん」 「もし来るなら変装して来い。こっちに裏切り者がいるという可能性もあるが、それ以上にランに見つかるとまずい」 「ランはてっきりこういうのには興味が無いかと思ったけど」 「ああ、無い。ただ、突然俺についてくるとか言いかねんからな。念には念を、だ」 「分かった。……その割には、来るなとは言わないんだな」 「実際に参加する人間の能力を見たほうが、お前も作戦を立てやすいだろう」 「作戦って、僕の考えたのでいいの? ただの一意見のつもりだったんだけど」 送信した直後に着信があったから、僕の作戦にまともに目を通す時間も無かったはずだ。 そこそこの人数が関わっているこの作戦。いくらシルバーがリーダー格だとはいえ、僕のような一介の子供の意見が通るとは本気で思ってはいなかったんだけれど。 尤も、子供と言う意味ではリーダーであるシルバーも変わらないか。 それにしても、組織にこういう作戦立案を行うような役とかいないのかな。 「ああ。お前はスパイである可能性がゼロだからな。それだけである種十分ともいえる。そもそも、俺が人を指揮する立場に向かないというのは、お前もよく知っているだろ」 「よく言うよ。リーダーなんかやってるくせに」 「ただの成り行きだ」 シルバーは苦々しげにそう吐き捨てる。 「用件はそれだけだ。では、予定の時間に、予定の場所で会おう」 彼はそう言うと、僕の返事も聞かずに電話を切った。 656 名前:ぽけもん 黒 26話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/10(土) 23 59 17 ID OxvbpP8c [6/7] 変装って言われてもなあ…… 帽子にサングラス、マスクとロングコートとかか? これはこれで目立つ気がする。 「変装かあ……どうしたらいいかなあ」 呟きを漏らすと、電話を聞いていた香草さんが、いかにも名案を思いついたといった様子で言う。 「そうよ! 二人羽織をすればいいんじゃないかしら!」 ……アホの子がいる。 「ホラ、そうすれば体格とか全然分からないし、完璧だわ!」 うん、完璧だ。 その後僕は香草さんをこんこんと説得して二人羽織を諦めさせ、変装に必要な道具を買いに行った。 帰ってくると、部屋にやどりさんがいた。 「おかえり……どこに、行っていたの?」 「あ、うん、例の作戦の前にこちら側の人間が集まる集会があるんだけど、それに参加するための変装道具を買いに」 僕はそういって袋から鬘を取り出して見せる。 「そういえば、やどりさんの変装道具もいるよね。一緒に買いに行くべきだったかな」 「必要……ない」 彼女はそう言ってきぐるみの背中に手を這わす。きぐるみをおろすと、中から白い肌が垣間見える。 「な、ゴールドは見ちゃダメー!」 香草さんの蔦が飛んでくるより前に、僕は慌てて後ろを向いた。 「き、着替えるなら部屋出るから、終わったら呼んで」 僕はそういって急いで部屋を出る。 ふう。やどりさんはこういうのに無頓着だから、時々びっくりさせられるよ。 「……見た?」 いつの間にか隣にいた香草さんが険しい目つきで僕を見る。 何をどこまで、と聞きたかったけど、とりあえず反射的に口からでるのはこの言葉。 「み、見てないよ!」 「……本当に?」 香草さんは明らかに疑っているようだ。 いったいどこからアウトなのか分からない以上、余計なことはいえない。 「本当だよ!」 「ならいいけど……ゴールドは私の彼氏なんだから、私以外の女の裸は見ちゃだめなんだからね」 「私以外のってことは、チコさんの裸は見ていいってこと?」 何気なく口にしたのがまずかった。何余計なことを言ってるんだ僕は。 彼女の顔がみるみる真っ赤になったかと思うと、すぐに蔦が飛んできた。 「な、ゴールドのバカエッチスケベへんたーい!!」 どれか一つに絞ってほしいなんてこの状況で言えるわけもなく。 僕は数十の蔦に打たれて地面に伏すことになってしまった。 「あ、ご、ごめんなさい! でも今のはゴールドがいけないんだからね!」 確かに僕は悪かったと思うけど、それでも反射的に蔦が伸びるのはどうかと思うな。 そんな言葉が首まででかかったところで。 がらりと部屋のドアが滑った。 「終わった……着替え」 僕はそういって部屋から出てきたやどりさんを見て、わが目を疑った。 やどりさんはいつものもこもこしたきぐるみではなく、扇情的な赤く、薄く、そして露出部の多いドレスを身にまとっていて、しかもそれを着た彼女はびっくりするくらい魅力的だった。 彼女の恵まれたバストと引き締まったウエスト、そしてまたふくらみを持つヒップ。 かつてやどりさんが「自分は脱いだらすごい」と言っていたことがありありと思い出される。 この派手さから言って、このドレスは誰でも着れるような代物ではない。選ばれし者のみが着こなせるドレスと言っていいだろう。 香草さんではこうはいかないはずだ。 香草さんも、部屋から出てきたやどりさんを見て、あんぐりと口を開け、やどりさんの胸部と自分の胸部で視線を往復させている。 何とか事実をゆがめようと彼女の頭は必死に働くが、それでもなお認めざるを得ない現実。 そこまでの圧倒的なリアル(胸)がそこにはあった。 やどりさんは香草さんに向きなおり、彼女の頭の天辺からつま先まで眺め、そして、 「ふっ」 と冷笑した。やどりさんのこんなにも勝ち誇った笑みははじめてみる。 いくら傲慢な香草さんでも認めざるを得ない、歴然たる敗北がここにはある。 さあ香草さんはどうでる。 「ふ、ふふふ、ふ」 彼女は不敵な笑みをどこか飛んだ表情で浮かべながら、ゆらりと蔦を伸ばした。 657 名前:ぽけもん 黒 26話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/10(土) 23 59 53 ID OxvbpP8c [7/7] 「そうよ、そんなもの、削ぎ落とせばいいんだわ。そ、そうよ、平らに、平らにしなくちゃ。私よりももっと平らにしてあげなくちゃ」 まさかこうでるとは。 思った以上の過剰反応だ。予想以上に恐ろしいことを言いだした。 対するやどりさんは余裕の笑みを浮かべながら――今僕には彼女のドレスのぱっくりと開いた白磁のような背中しか見えないから本当のところ表情は分からないのだけれど、これには確信があった――、ゆっくりと戦闘態勢に入る。 なんてこった。まさかスタイル――いや、おっぱいが戦いの引き金となるとは。 そうだ、これをおっぱい大戦――そう、第一次おっぱい大戦と名づけよう! そこまで思考がずれたところでハッと正気に返った。 どうして僕はこんなおかしなことを考えていたのだろうか。 これもすべてやどりさんのおっぱいの魔力が生み出した幻惑作用によるものだというのだろうか。 それの真偽のほどはおっぱいのみぞ知るとして、ともかく、今はこの戦いが起こるのをとめなくてはならない。 どうする。 生半可な言葉で今の香草さんは止まるだろうか。 否。今の彼女を止めること、それはすなわち両者のおっぱいの差を埋めることと同義である。 おっぱいの差を埋める。 果たしてそんなことは可能なのであろうか。 おっぱいの差を埋めるなんて、それこそおっぱいをそぎ落とすか、豊胸でもしない限り不可能。 豊胸。 そのとき、僕の脳裏に閃光が閃く。 そうだ! あるじゃないか! やどりさんのおっぱいをそぎ落とさずとも、香草さんのおっぱいにシリコンを挿入しなくても、おっぱいの差をなくすことができる、簡単で、すばらしい方法が! そうだ! おっぱいを差を埋めるもの、つまりおっぱいはすでに僕の手の中にあったんだ! 「香草さん! これを!」 僕は袋を漁ると、手につかんだものを香草さんに投げつけた。 香草さんは見事にそれをうけとり、彼女はそっと手を開く。 彼女の手の中に納まったもの――それは…… 「……それは」 「胸……パッド?」 張り詰めていた空気が、ふっと緩んだ。 そう、これこそが、両者の埋まるはずのない差を埋める奇跡のアイテム、胸パッドである。 そう、これさえあれば小さなおっぱいでも大きなおっぱいのように振舞える。 おっぱいの格差がなくなる。 つまりそれは世界からありとあらゆる争いが消えうせ、世界に平和が訪れると言うこと。 そう、胸パッドとは平等と博愛を象徴していたのだ! こうして、世界に平和が訪れた。 ……わけもなく。 ああ、これから僕は香草さんの手によりハンバーグの材料にされる運命なのね、とおずおずと彼女の攻撃を待っていたが。 顔を覆うようにした左右の腕を上下にずらし、香草さんを見ると、彼女は確かに顔を真っ赤にしていたが、それは怒りによるものというより…… 「ゴールドの……ゴールドのばかぁぁぁぁぁぁぁ!」 香草さんはそう絶叫し、胸パッドをリニアモーターカーに匹敵するんじゃないかという速度で僕めがけて投げつけると、そのまま走り去った。 パッドは見事に壁にぶつかると、壁ごと爆散し、それが起こした兆弾が僕に降り注いで僕を悶絶させる。 さすがに息もできず、僕にできることと言えばうずくまって口をパクパクさせながら走り去る彼女に向かって手を伸ばすことだけだった。 「……だいじょうぶ?」 そう言って屈みこんで僕を伺うやどりさんのドレスの中が見える。 ああドレスに負けず劣らず、何と過激で扇情的な下着なんだろう。 数分後、ようやくまともに呼吸できるようになったので、香草さんを追う。 やどりさんはとりあえずその格好だと目立つから、と部屋に返した。 闇雲に走っても見つかるわけない、と思うかもしれないが、この間の行方不明事件以来、僕は彼女に発信機を持たせている。 だからそれを確認すれば彼女の位置は一目瞭然なのだ。 ……どこか犯罪の臭いがするような気がしなくもないけど、本人同意の下なんだから問題ないはずだ。 とにかく、それで香草さんの位置を確認すると、香草さんは案外近くにいた。 人気のない路地裏。彼女はそこにうずくまって泣いていた。 「香草さん!」 僕は泣きじゃくる香草さんに呼びかける。 彼女は涙とその他でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、僕を見る。 「ごめんね、そうだよね。ゴールドも私みたいみたいなのよりおっぱい大きい子のほうが好きだよね」 彼女は涙ながらにそう語る。 658 名前:ぽけもん 黒 26話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/11(日) 00 00 27 ID 7f.9q1S6 [1/3] いやおっぱいとかそういうレベルではなく、やどりさんとの差はもっと総合的な話なんだけど、もちろんそれは口にしない。 ごめんねごめんねと謝る香草さんを抱き寄せると、僕は彼女の手にそっと神器という名の胸パッドを握らせる。 「ゴールド……」 「大丈夫だよチコさん。胸パッドはすべてを許してくれるよ」 そう、胸パッドは世界平和の象徴なのだから。 再び香草さんのばかぁぁぁぁぁぁ! という叫び声と、バシーンという盛大な僕の頬が張られる音が辺りに響いたのは言うまでもない。 「おかえり」 帰ってくるとやどりさんはいつものきぐるみに戻っていた。よかった。 「ただいま。変装の話の続きだけどさ、確かに服装変えただけでもかなり変わるけど、やっぱり何か顔を隠すものがあったほうがいいと思うんだ」 「大丈夫。それも用意してある」 彼女はそういって、スッと何か取り出し、目の部分に当てた。 「……蝶?」 「そう、蝶をモチーフにしている」 彼女が取り出したそれは、蝶を象った、顔の半分が隠れるような大きく派手なアイマスクだった。 先ほどのドレスとこれをあわせると、どこの仮面舞踏会だと思わなくもない。 変装としては由緒正しいんだろうけど、正直、場所にあっていないような。 どう考えても、あからさまに怪しい。 いや、これくらいインパクトがあったほうが、普段とのギャップがあってちょうどいいのか? それに、これだけ目立ってくれればやどりさんが印象的過ぎて一緒にいる僕たちの印層も都合よく薄れそうだ。 というわけで黙認する。 二人の現在の能力の確認と作戦の考案で数日を過ごし、いざ集会。 場所はビルの地下倉庫だった。 事前に送られてきたサインを入り口の警備員に提示すると、簡単に入ることができた。 少し危機管理が甘い気もする。 特に今のやどりさんはどう見ても不審者だ。 やどりさんは例のアイマスクと赤いドレス。 僕は金髪のカツラをつけ、髪で顔を隠し気味にし、頬にはそばかすが書かれていて、さらにシークレットブーツで身長までごまかしてある。 香草さんは長い赤の鬘に派手な化粧、胸は無数のパッドの力によりやどりさん以上に膨らんでいる。 どう考えても一緒にいるのがおかしい取り合わせだ。 その辺のバランスも考えるべきだったかもしれない。もちろん、二人羽織は却下だけどさ。 しかし変装だというのに、やどりさんはむしろ普段より衆目を惹いていたような気がする。いや、多分気のせいじゃないけど気のせいだと思いたい。 都会だからきっとみんな気にしないはずさ。 シークレットブーツの歩きにくさに苦戦しつつ、積まれた荷物の間を抜けて進むと、少し開けたスペースにでた。 三十人くらいだろうか、怪しげな人たちがそこに集まっていた。 きっとみんな大なり小なり変装しているんだろうけど、この怪しさはそういうところから出るものではない気がする。 それと、蝶マスクが男女合わせて十人近くいた。 多すぎだろ! 流行ってるのか? それともこれが正装なのか? そんなわけがないと頭を振っていると、香草さんが不安げに耳打ちしてくる。 「ねえゴールド、本当にここって安全なのかしら。なんだか怪しげな人ばかりじゃない」 隣にも一人いるんだけどな、怪しい人。 それに、もしかしたら怪しいのは僕たちのほうかもしれない。 こんな普通にそこらにいそうな人間ではなく、もっとぶっ飛んだ方向に変装すべきだったのかもしれない。 不安を覚えながら待っていると、予定の時間を十分ほど回ったところでシルバーは表れた。 傍らにランの姿はなく、変わりに五十代くらいの黒髪で浅黒い細身の男がいた。 見た目は一見普通だけど、なんとなく、物々しい雰囲気がある。 会場の人間はあれからそこそこ増えて五十人を超すほどになっている。 実働部隊は十五人程度という話だったから、彼らがにわかに集まった増援でないのなら、ここにいる多くは諜報系やバックアップの人間ということになる。 ロケット団に私怨があるけど戦力にならないのか、それとも、単に危険に自らをおきたくないのか。 シルバーは大勢の人間を前にあわてる様子もなくゆっくりと歩を進め、皆の前に立つ。 悠然と全体を眺めると、彼は落ち着いた調子で話し始める。 「諸君。今までの協力、感謝する。私が、反ロケット団のリーダーであり、今作戦の隊長を勤めさせていた頂く、シルバーだ」 659 名前:ぽけもん 黒 26話 ◆wzYAo8XQT.[sage] 投稿日:2011/12/11(日) 00 00 54 ID 7f.9q1S6 [2/3] 数人の間に、どよめきが広がる。 こんな子供が? という声がちらほらと聞こえてくる。 あまり多くはないけど、シルバーがリーダーだってことを知らない人間もいたらしい。 シルバーは決して幼い印象はないけど、それでもせいぜい二十代前半くらいにしかみえない。 そんな若い人間が自分達の命運を握ることになるんだ、不安を覚えるのも当然だろう。 そんな不安を切り裂くように、彼は言葉を発する。 「見てのとおり、私の若さに不安を覚える者もいると思う」 場内が軽くざわつく。ばつが悪そうに視線を反らす者もいる。 彼は少し間を開け、淡々と話し出す。 「私は昔、ロケット団のせいで人生を台無しにされた。私はそれから、ずっとロケット団を憎んで生きてきた。ロケット団を潰すことために尽力してきた。私の功績は、ここにいる諸君ならばよく分かっていることと思う。ロケット団に大きな怨みを持つ諸君よ。私は、十年前からずっとロケット団を憎み続けてきた私は、果たして諸君らにとって信じるに足らない存在か?」 場内がシンと静まり返った。 ロケット団を潰そうと、怨みを晴らそうと集まったここの人間の中でも、十年以上、ずっと憎しみの中ですごしてきた人間というのはそう多くはないだろう。 ロケット団から大切な何かを奪われたであろう人たちであるだけに、この話は彼らにとって見過ごすことのできない力を持っているだろう。 ただ、僕としては少し腑に落ちない点もある。十年前といえば、僕ら三人がまだ普通に生活していたころだ。 シルバーが家を失うことになった遠因はロケット団であることは確かだけど、それならまず警察を憎むほうが筋が通っている。 あの後、シルバーが逃亡生活を始めてから何かあったのか、それとも…… シルバーは静まり返った会場を見て、一転、今度は強い、人々を鼓舞するような口調で話す。 「年齢、種族、性別……多くを異にする我々がこの一所に集まっているその理由、ロケット団を潰すというその志こそが、我らの共通点であり、絶対の正義であるはずだ。一時、壊滅状態に陥ったロケット団はその実、財界各所にその根を蔓延らせ、雌伏して時を窺っていたに過ぎなかった。ロケット団は復活し、その悪意の結晶として、まもなく、ロケット団復活後最大規模である作戦が決行される。多くの人員が投入され、幹部も動かざるを得ない。これは我々、ロケット団に怨みを持つものにとって唯一無二の好機である! 今度こそ、この手でロケット団を徹底的に叩き潰し、この世からロケット団という組織を根絶するのだ!」 シルバーがそう言い放つと、場内は熱気と歓声に包まれた。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1378.html
317 :ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b [sage] :2009/10/09(金) 22 19 07 ID Fq4q3HCv 遭難した。 何かの冗談でもなければ何かの比喩でもない。 本当に、道に迷った。 鬱蒼と生い茂る樹海の中で。 僕は、皆に向かって力の無い笑みを浮かべた。 シルバー達に逃げられた後。 延焼が起こらないことを確認した僕と香草さんはポケモンセンターに戻った。 香草さんが僕の火傷を心配したためだ。 香草さんはヒリヒリと痛む僕の肌を撫でると、今にも泣き出しそうな顔で僕を見た。そんな彼女に「今すぐポケモンセンターに行きましょう」と懇願されれば、同意しないわけにはいかない。 実際は火傷というより日焼けといったほうが正しいような軽症だった。どの道、このまま散歩を続ける気分にもなれなかったけども。 過剰に僕のことを心配したかと思えば、その直後に「あのアマ、今度会ったら絶対にぶち殺してやる」なんて恐ろしいことを口走る。 ますます香草さんとランは戦わせられない。 そもそもランが悪いわけじゃない。悪いのはシルバーなのに。 しかし、香草さんは感情の変化が激しすぎるように思う。笑っていたと思えばすぐに不機嫌になり、慌てていたと思えばすぐに怒り出す。もしかして女の子は皆こうなんだろうか。 だったら僕は今後女の子と関わっていく自信がない。 ポケモンセンターで診断を受けたが、やはり結果は「治療の必要なし」だった。 大事をとって一応塗り薬を出すか? と聞かれたが、不要だと思ったので断った。 僕が診察室からでて、診察室の前で待機していた香草さんにそれを告げると、「藪医者が!」と診察室に突撃しそうになった。 羽交い絞めにして抑え、なんとか説得した。 羽交い絞めにした際、香草さんの胸の感触がして恥ずかしいと同時に嬉しかったことは内緒だ。 しかしその後香草さんが「やけによそよそしかったから間違いなくばれていただろう。 触っているんだからばれない道理はないんだけど。 部屋に戻った後がまた大変だった。 香草さんの治療に行って以来戻っていなかったために、長時間(といっても一時間程度だが)放置されたポポは恐慌状態だった。 ドアを開けた僕の目にまず飛び込んできたのは散乱した羽。 次に目に入ってきたのは、隅のほうで小さくなっている、涙で顔をグシャグシャにしたポポの姿だった。 「い、一体何があった!?」 僕は慌ててポポに駆け寄る。どう見てもただ事ではない。 「ゴー……ルド…………ゴールド!? うわぁああああん!」 ポポの突進のような抱擁に僕は数メートル飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。ポポは僕の胸に顔をうずめ、泣きじゃくっている。 僕はすぐに危険を察知し、ポポの背中に両腕をまわした。 間髪空けずに、腕に蔦が叩きつけられる。 腕に爆ぜるような激しい痛みが走った。 「香草さん、何するのさ!」 「ち、違うの! ゴールドにやろうと思ったわけじゃないの! ただ私はその鳥に……」 「それがダメだって言ってるのさ! どうしてそんなことしようとするんだよ!」 「だってゴールドにだ……」 ポポが僕に思いっきりぶつかったことを怒っているのか。 「そんなこと言っている場合じゃないだろ! ポポ、僕たちのいない間に何があった!?」 僕は二度目となる質問をポポに投げかけた。 しかしポポは相変わらず泣いてばかりで話せそうに無い。 しかも廊下まで飛ばされてしまったので、人が通りかかるときっと奇異の目にさらされることだろう。 だからとりあえずポポを抱えてベッドまで移動することにした。 「な、何してるのよ!」 突然香草さんから批難のような質問が投げかけられる。 「何って、ベッドまで運ぼうかと」 直後、頭部を狙って飛んできた香草さんの蔦をかがんで回避した。 なぜかは知らないけど、香草さんの蔦が飛んでくる気がしたからだ。案の定、飛んできたわけだし。 香草さんの言葉には言外の意味が多すぎる。普通の回答じゃほぼ間違いなく蔦の餌食になることを僕はすでに学習済みだ。 318 :ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b [sage] :2009/10/09(金) 22 19 29 ID Fq4q3HCv 次いでとんできた蔦も扉の陰に隠れることでやり過ごした。 ここは遮蔽物が多いから隠れやすいし、そもそも狭いから蔦を振り回しにくくて良いね。 香草さんの蔦対策がそのまま場所の良し悪しになっていることに泣けてくる。 「ダメよ、そんなの絶対にダメ!」 そういうことは蔦を振り回す前に言って欲しい。僕じゃなかったら今頃大怪我だ。 「何がダメなのさ」 「何がって……そんな……」 なにやら香草さんは大きな誤解をしているような気がする。 「ただポポから話を聞きたいだけだよ?」 「嘘よ!」 どうして嘘と判断したのか聞きたい。僕の今の話に何かおかしな点があっただろうか。それとも、僕はそんなに嘘つきに思われてるのかな。 「本当だよ。香草さんも一緒に聞こうよ。場合によっては警察のお世話になるかもしれないし」 「警察の世話になんてならないわよ! だってその鳥、それ自分でやったのよ!?」 自分で? 自分で羽を毟って撒き散らしたというのか? ポポは腕が翼になっているために自分で自分の羽を毟ったりは出来ない。どうやって自分一人でこんなことをしたっていうんだ。 そう思いながらも、確認のために一応ポポに問いかける。 「そうなのポポ? これ、自分でやったのか?」 僕の問いかけに、ポポは首をわずかに下げた。なんてこった。 最初この羽毛はポポのものかと思ったけど、よく見たら部屋の片隅にビリビリに引き裂かれた枕が転がっていた。 羽毛の枕なんて、なんて無駄に高級な設備なんだポケモンセンター! 税金の無駄遣いという言葉が頭をよぎったが、普段は枕もなしに野宿という旅人達のために、せめてここでくらいは柔らかい枕で寝て欲しいという優しさかもしれない。 というか、そうであって欲しい。 「どうしてこんなこと……」 「怖かったんです!」 「怖かった?」 「ゴールドが帰ってこなくて……捨てられたのかと思って……探しに行きたかったですけど……ゴールドが戻ってきた時いなかったら……約束破ったら捨てられちゃうと思ったんです……それで、どうしたらいいのか分からなくなって……分からなくなったんです」 ポポは泣きじゃくりながらポツポツと述べる。 はっきり言って、ポポの心理が理解できない。 「ポポ。どうしてポポはそんなに心配するのさ。僕ってそんなに外道に見えるかな?」 つい言ってしまった。ポポもこんなことを聞かれても困るだろう。彼女には否定以外の回答は初めから用意されていない。僕が気づいていないだけで、僕が本当に下衆野郎だとしても、僕から見放されないためには否定するしかないのだから。 「ポポには……ポポにはゴールドしかいないんです。ポポには何も無いんです。一人では何も出来ないんです。ゴールドが……ゴールドがいないと……。だから、ゴールドがいなくちゃ生きていけないんです! だから、だから……」 嗚咽によって言葉は途中で途切れた。ポポは再び僕の胸に顔をうずめて泣きじゃくる。 「そんなこと無いよ、ポポはもっと自分に自信を持つべきだ。僕が……」 「はいはいそこまで。分かったでしょ? その鳥に付き合うだけ無駄なのよ。まともな理由なんかないんだから」 僕がいなくてもポポは大丈夫。ポポは僕以外のトレーナーを知らないからそう思うだけなのさ。僕はけして特別じゃない。 その言葉は香草さんの割り込みによって中断された。 香草さんはうんざりした表情でポポを僕から引き離す。 ポポは両翼をバタバタと羽ばたかせて抵抗したが、香草さんの力には勝てなかったようだ。 一方の僕はというと、その様子をただ呆然と眺めているだけだ。 どうしたらいいか分からない。 ポポの状態はどう考えたってまともじゃない。僕が、何かを間違えたのだろうか。 きっと、僕のそんな様子でまた不安になったのだろう。ポポがまた今にも泣き出さんばかりに顔を歪めた。 僕はポポを安心させるためにとりあえず笑みを作る。中身の無い笑みを。 319 :ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b [sage] :2009/10/09(金) 22 20 07 ID Fq4q3HCv 僕が入り口から向かって左側のベッド、ポポと香草さんが向かって右側のベッドで寝ることになった。 香草さんの強い要望のためだ。 それには、僕としても同意だった。 ポポを甘やかしすぎたのかもしれない。いや、甘やかしているというほど何かをやったわけではないけども。 とにかく、距離をとることには同意だった。 香草さんには悪役を押し付けてしまって申し訳ないけど、香草さんの要望ということであれば僕がポポを見放したということにもならない。 もちろん、香草さんにポポに対して暴力を振るわないことは約束させた。 ……これで責任を果たした、と考えるのはただの独りよがりなのだろうか。 もしかして、育児放棄を行った大人も、このように考えているのかもしれないな。最低限すら果たせてないのに、それで十分と勘違いする。 たとえ偽りでも、それが一時的な仮初であったとしても、ポポを愛すべきなのだろうか。 たとえ、それがいつか僕の人生と共に決定的な破滅に行き着くことが分かっていたとしても。 僕の心は揺れていた。 フワフワの羽毛の枕も、僕の煩悶を吹き飛ばしてはくれなかった。 重い気分で迎えた朝。 体を起こすと、香草さんとポポはすでに起き上がってこちらを見ていた。 なんだか怖い。 「お、おはよう」 「おはよう」 「おはようです」 僕の挨拶に対して二人は微笑んだが、それがさらに恐怖を煽る。 これは単なる被害妄想だろうか。 僕たちは準備を終えると次の町目指して出発した。 檜皮村から次の古賀根市へ行くには姥女の森を通らなくてはならない。 この森、木々が鬱蒼と生い茂っているため、昼間でも地上部まで日光が届かず、非常に薄暗い。その上、いろんないわくがあるとかで全国的に有名な心霊スポットでもあり、夜には絶対に立ち入りたくない場所だ。 地元住民からはいわくつきの地というより、神聖な場所ということで畏れられてこそあれ、怖れられているなんてことは無いから、いわくなんてものはただの噂で、実際には何も無いと信じたい。 入り口で通行が制限されるという特性上、ここは一つのチェックポイントにもなっている。僕は入り口の係員にポケギアで自分の情報を提示する。 係員の隣には警察の人もいて、ロケット団の出入りを監視しているようだった。 「ロケット団に気をつけて、見つけたらすぐに通報してその場から逃げてください」 と言われたが、シルバーの件を知っている僕からすれば、出入り口なんて警戒しても意味がないと思ってしまう。元々一部の人とトレーナーしか立ち入れない場所なんだし、そもそもロケット団が正規の出入り口を使うはずがないのに。 実際に踏み入ってみて分かったが、この森は本当に暗い森だった。 入り口から数十歩進んだだけで晴れから曇りになったくらいの明るさの差がある。 行き先は闇にかすんで、はっきりとは見えなかった。 「なんだか、気味が悪いね」 僕は思わずそう漏らす。 「な、情けないわね。ゆゆゆ幽霊なんているわけないじゃない!」 そういう香草さんの足は小刻みに震えている。少し可愛い。 ポポはといえばキョトンとしていた。羨ましいまでに鈍感だ。 光が入らないためか、あまり固くない地面を踏みしめながら進んでいく。 まだ朝だというのに、森はすでに雨天時よりも暗くなっていた。 暗さもさることながら、木々の密集度からポポが飛ぶことが出来ないことも厳しい。香草さんの蔦も本来の力を発揮することは出来ないだろう。 「きゃっ!」 香草さんがゆるい地面に足を取られ、短い悲鳴を上げる。 「大丈夫?」 「ポポは大丈夫ですー」 はいはい、分かったからね。 香草さんは――僕もだが――歩きにくそうにしているが、ポポは鉤爪のお陰か、それとも長かった野性の生活のお陰か、滑りやすく力を込めにくい地面をまったく苦にせず、なんでもないようにひょいひょいと歩いていく。 その跳ねるような動きが、ヒラヒラと揺れる服や羽と相まって、とても可愛らしい。 あっちに足をとられ、こっちに躓きと、ふらふら歩いている僕と香草さんとは大違いだ。 香草さんは何も言わないが、表情からは不機嫌さがにじみ出ている。 こういうときこそ、(一応)パートナーである僕が支えてあげないと! ……決してポイント稼ぎとか、そういうのじゃないからね! 僕は彼女に手を差し出した。 ふらふらしている人間同士が手を繋いだら共倒れになるんじゃないかとか、そういう野暮なことは考えてはいけない。 320 :ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b [sage] :2009/10/09(金) 22 20 43 ID Fq4q3HCv しかしその手に重ねられたのは手ではなく翼だった。 いつの間にかポポが素早く駆け寄ってきていたのだ。 僕はポポを見たが、涙目で上目遣いで覗き込まれてしまった。 「だめ……ですか?」 涙声でのトドメの一押し。 これで何も言えなくなってしまうのは僕だけではないと自信を持っていえる。 そういうことで、なんのためか分からないけど、ポポと手を繋いで森を進む。 ポポと手を繋いでも、当然足場が安定するわけではなく、そのため何回かポポを巻き込む形で転んでしまった。 しかも一回は一見ポポを押し倒しているような格好でだ。 すごく気まずいと共に、手をつないだのが香草さんでなくてよかったと思った。香草さんとだったら今頃僕の命はない。運がよくても繋いだ腕は根元からなくなっていることだろう。 しかし巻き込んでしまっていることが申し訳ないから、ポポに手を離そうかと提案しようと思ったけど、ポポの嬉しそうな顔を見て、僕が手を離そうと言った後のことを考えると何も言えなかった。 僕の数歩前を行く香草さんの周りだけ闇が濃いように思えるのは気のせいではないと思う。 一方で、隣にいるポポはここが薄暗いというには暗すぎる森の中だと思えないくらいニコニコとして明るい。 まるで香草さんの周囲の光がポポの周囲に移動しているかのようだ。 僕はとても胃が痛い。 その胃が痛い空気で進むこと数時間。 唐突に、ポポが立ち止まった。 「どうしたの?」 「……誰かの泣き声みたいなのが聞こえる……気がするです」 僕の質問に、ポポはおずおずと答えた。 その様子からして確証は無いようだ。 事実、立ち止まって耳を澄ませてみても、僕には何も聞こえない。 香草さんにも尋ねてみたが、彼女はこちらに向き直ることもせず、無言で首を振った。 彼女は僕や香草さんと比べかなり耳が良いから、僕が分からなくたって間違いとは言えない。 しかし、こんな暗い、先の見えない森で泣き声。どう考えても気分のいい話ではない。 背中に寒いものが走る。 「と、とりあえず、先に進んでみようか。ほ、ほら、ポケモン同士のバトルかもしれないし!」 僕は結論を保留して先に進むことにした。 立ち止まっていてもしょうがないし。 何かに怯えながら、慎重に、ゆっくりと進むことしばらく。 聞こえた。僕にも、聞こえた。 しくしくと、すすり泣くような声が。 香草さんも聞こえたらしい。足が止まった。 香草さんは青ざめた顔をして振り返った。 き、ききき気のせいよね!? 口はパクパクと動くばかりで言葉をなしていないが、そう言いたかったような気がした。 僕はコクコクとせわしなくうなずく。 香草さんを勇気付けるというよりは、自分を落ち着かせようと暗示をかけているといった方が適切だ。 なんとか励まそうと言葉を発しようとしたけど、恐怖でパニック手前に陥っている頭は上手い言葉を見つけてくれず、僕も彼女のように口をパクパクさせるだけに終わった。 ポポはそんな二人の様子をキョトンとして見ている。ポポは幽霊に対する恐怖とかないんだろうなあ。ゴーストポケモンだったら戦う対象だろうけど、それ以外のモノはポポにとっては意味を成さないんだろう。 辺りを警戒しながらゆっくり先に進むが、明らかに香草さんの歩が遅くなっている。進めば進むほど、すすり泣きも近くに聞こえてきているから分からなくも無いんだけど。 ついに香草さんの足が止まった。彼女は今にも泣き出しそうな顔で振り返った。 か、かかか風の音よね!? 相変わらず言葉にはなっていないが、そう言っている気がした。 しかしこれが風の音ではないことは明白だ。もちろん気のせいでもないことも。 僕は無責任にうなずくわけにも行かず、沈黙を返す。 ポポは僕の顔の覗き込んで、不思議そうな顔をしている。 321 :ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b [sage] :2009/10/09(金) 22 21 16 ID Fq4q3HCv 「そ、そういえば」 「そういえば?」 「い、いや、なんでもない」 「き、気になるじゃない。言いなさいよ」 「あー、えっと……思い出したんだけどさ、とある研究所で、幽霊の研究をしていた科学者が、幽霊に取り付かれて自分も幽霊になっちゃったっていうホラーを思い出してさ……」 「いやぁああぁあぁああああああ」 耳を劈く悲鳴が辺りに響く。 香草さんは叫びながら強く僕に抱きついた。骨が折れそうな勢いで。 肺から空気が噴き出していくのが分かる。い、息が…… 「ご、ゴールド!? しっかりして!?」 香草さんは僕がグッタリしていることに気づいたようだ。 「ま、まさか……幽霊の仕業!?」 いえ、貴方の仕業ですよ香草さん。 だからそんな青い顔をしてガクガクと震えないでください。 「チコのせいです!」 一方、幽霊なんてものに微塵の恐怖も抱いていないポポは当然僕がグッタリしている理由が分かっているわけで、激昂し、香草さんに飛び掛った。 止めなければ。僕がそう思うより早く。 ポポは突然空中で固まり、そのおかしな姿勢のまま地面に落ちた。 「ぽ……ポポ?」 呼びかけるも、返事は無い。 慌てて抱き起こす。意外なことに、ポポには意識があった。目だけをを必死に動かしているが、体の自由が利かないようだ。ポポ自身も、何が起こったかわからないらしい。 こ、これはまさか…… 「ゆ、幽霊……」 香草さんはそう呟いたかと思うと、体をまっすぐに伸ばしたまま後ろ向きに倒れた。抱き起こしてみたが、こちらはただの気絶のようだ。 よく見れば、前方の空間、木々が不自然に折れ曲がっており、しかも周囲に比べて水浸しになっている。これはもうじめじめの域ではない。 前方に何かいる。 おそらくポポが突然動けなくなった原因もそれだろう。 となると、この何かをなんとかするしかなさそうだ。 頼りの香草さんは気を失っているし、起こしたところで戦力にはなりそうにない。 となると、当てに出来るのは僕一人だけか…… 出来ることなら逃げたいが、そうも行かない。 僕はベルトに挿したナイフを抜くと、そろそろと進む。 またシルバーに遭遇しないとも限らないと思ってベルトに挿しておいたのだけれど、隙を少なく武器を取り出せることがこんなときに役に立つとは。 原因が本当に幽霊だとしたら効果があるかは疑問だけど、それでも心強い。 ほとんど進む必要もなかった。 ほんの数歩進んだだけで、濁った池が見えた。 同時に、その池に浮かぶ桃色をした何かも。あ、あれはまさか髪? で、溺死体? もしくは、あれはここで非業の最期を迎えた人の幽霊で、成仏しきれずに化けて出ているとか…… ろくでもない言葉が脳裏をよぎって、思わず身構える。 そうしている間もすすり泣きの声が聞こえてくる。 やはり発生源はアレのようだ。 ……嫌だけど、とりあえず近付くしかないのかな。 い、いや、そういえば、池に近付くと、そのまま池の中に引きずり込まれるなんて怪談ではよくあるパターンではないか! 「あ、あのー、すみませーん」 近付く気が失せたので、とりあえず呼びかけてみる。 しかし反応はない。 どうやら近付いてみるしかないようだ。 ああ、嫌だなあ。 そう思いながらゆっくり近付いていると、突然その桃色の物体が池から浮上した。 同時に、見えない手のようなものに押されて、その場に倒された。 慌ててナイフを構えなおし、前方を向くと、そこには、桃色の長い髪を持った、同じくピンクの着ぐるみのようなものを着た少女が立っていた。 着ぐるみは撥水加工がほどこされているのだろう、表面の水は見る見る玉となり落ちていく。 年は僕と同じくらいか少し上くらいだろう。目は物憂げに開かれており、口が開きっぱなしになっている。どこかこことは違う世界を見ているような、単に何も見ていないような、そんな不思議な印象を与える表情だ。 322 :ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b [sage] :2009/10/09(金) 22 22 01 ID Fq4q3HCv これは……ヤドンか。 幽霊の正体見たり枯れ柳とはまさにこのことだ。 ここはヤドン族が多数住んでいる檜皮村からいくらも離れていない。ヤドンに遭遇しても何の不思議も無い。 僕は安堵したが、同時に不安も覚えた。 ヤドンは本来温厚なはずだ。それなのに彼女の周囲にある木々はことごとく、おそらく念力で曲げられており、そしてポポが身動きが取れなくなったのは、きっと彼女の金縛りによるものだ。 だとすると、これはこれで、危険な状態と言える。 香草さんにもポポにも頼れない今、襲い掛かられたら僕は自分の身を守れるのだろうか。 情けない現実だ。 彼女は池から上がると、僕のほうにゆっくりと歩いてきた。 ど、どどどどうしよう! 警戒は怠ってはいけない。しかし相手に警戒心を与えてもいけない。 僕は彼女の死角になるように、背中にナイフを構えた。 念力を自在に操るヤドンに、果たしてナイフは通用するだろうか。 そう思わなくもないけど、何もしないよりはマシだろう。 見えない腕で全身を締め付けられるような、そんな感覚。 突然僕は四肢の自由を奪われた。 何もしないも変わらなかったかもしれない。 おそらく、いや、間違いなく彼女の仕業だろう。 彼女は一歩、また一歩と僕に近付いてくる。 恐怖におののくも、何も出来ない。 一回の跳躍で僕に届く、そんな距離まで近付いたとき。 彼女は突然パッタリと倒れた。 わけが分からず、混乱していた僕の目に飛びこんできたのは、着ぐるみから突き出した、根元に近い部分からバッサリと切り取られた尻尾だった。 碌な処置がされていないようで、傷口は随分と生々しい。 手当てしないと! そう思ったときには、すでに金縛りは解かれていた。 僕は彼女を引き摺り、香草さんとポポが倒れているところまで戻った。 「ゴールド!」 僕の姿を捉えるなり、ポポに抱きつかれた。やはりポポは彼女に金縛りをされていたのか。 「急に体が動かなくなって、それでゴールドもいなくなっちゃって、心配したです!」 いなくなったって言ったってほんの数十メートルの話なんだけどね。 と、今はポポと戯れている場合ではない。一刻も早く彼女の傷を看ないと。 「ポポ、ちょっと離れて。彼女の手当てをしたいんだ」 「あう、ごめんなさいです」 ポポは僕から慌てて離れる。お願いだからその不安げな目をやめてくれ。 彼女が意識を失ったせいか、傷口からは血がにじんでいた。彼女が僕に近付くとき、特に血が垂れた様子はなかったから、きっと起きているときは念力で止血していたのだろう。となると、ますますまずい状態だ。 僕はリュックをおろすと、中から傷薬と包帯を取り出した。 僕のリュックに入っている道具は何も逃亡用の物だけではないのだ。突然の怪我にも対応できるようにしておくのはトレーナーの常識さ! 僕はただ他の人よりほんのちょっと逃亡用の道具が多いだけなのさ。 傷薬を傷口に吹きかけると、傷にしみたのか彼女はうっと呻き声を漏らした。 気絶したんじゃなかったのか。しかし立っていることもできないほど弱っていることに変わりは無い。 「今傷の手当をしているから、じっとしてて」 彼女にそう言うと、今度は傷口にガーゼを当て、手早く包帯を巻いていく。 これでよし。元々出血は酷くなかったし、ガーゼすらいらなかったかも知れないくらいだ。 彼女が倒れた原因はおそらく貧血だろうけど、水の中にいなければここまで酷くならなかったんじゃないだろうか。 しかし外敵がどこにいるかわからない状況ではしょうがないか。 ……それにしても、どうしてこんな酷い怪我をしているのだろうか。 ヤドンの尻尾は再生能力があるから多少の損傷は問題にならないとはいえ、これほど酷いとそれも例外だ。ちゃんと治癒すればいいけど。 鋭利な物で切られたような感じの傷口からいって、自然に出来たものではなさそうだ。 となると、誰かに襲われたと考えるのが妥当だ。 すぐに思いつく心当たりが一つ。 ロケット団。 僕は、背中に冷たいものを感じた。